私は彼が好き。
それはもう彼無しでは生きていけないくらい。
でも彼はそうじゃないらしい。

「シリウス、何処行くの?」
「図書室、宿題終わってねぇから」
「じゃあ私も…」

言いかけた言葉は彼によって遮られた。

「お前さ、いい加減にしろよ。何処にでもついてきて欝陶しい」

何処にでもついてくる?
私がいつ貴方に付き纏った?
だって勉強ぐらい一緒にしなきゃ二人の時間なんてないじゃない。
他の場所にはついて行ったりしてないし、他の女に会いに行く時だって黙って見送ってる。

「あと、俺が出掛ける度に談話室で待ってるの止めて。お前はストーカーか」

心底嫌そうな顔。
シリウスは元から率直で素直な人だからそういうのも全部包み隠さず顔にも言葉にも出す。
私はシリウスにそんな顔をさせるのもされるのも嫌で仕方なしに言葉通りに従う。ごめんなさいの一言も忘れずに。
そうすればシリウスは少しは満足したのかそれでいいんだよ、と出掛けて行った。
昔のシリウスは怒った後には必ずそれでいいんだよ、とくしゃりと笑って頭を撫でてくれたのに。
頭が妙に寂しくて、自嘲気味に笑った。

彼の何かある度にその長く細い男らしく骨張ったその手で頭を撫でる仕種が好きだった。
もしも私が猫だったならばきっとゴロゴロと嬉しそうに咽を鳴らすに違いない。

もう一度あの手で触れて欲しい。
彼は頭を撫でる所か、もう私に触れる事すらしない。

「もうあの二人は駄目ね〜」

立ち話をする女生徒達の耳障りな声にハッ、とする。
考えに耽っていて気付かなかったがそういえば此処は寮の前。
人は少なくなかった。

「彼女の方は良いように使われてるって感じ?」
「まぁしょうがないんじゃない?愛情が偏ってるし」
「あぁ、だよねぇ。シリウスは遊び屋だから軽いのに女の方重そうだもんね」

情けなさと恥ずかしさから私は直ぐさま寮内に入り、一気に階段を駆け上がった。
ドアの前にへたり込んで子供みたいに泣いた。

今朝のシリウスの嫌そうな顔がまざまざと脳裏に浮かんで来て掻き消すようにベッドに掛かる清潔感溢れる白いシーツを引っつかんでぐちゃぐちゃにした。







過剰な好きと淡泊な嫌い。

もう、限界だよ。


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