「先輩、」 「何?レギュラス」 「好きです」 幼い頃からずっとそうだった。 常に兄には勝てない。 勉強も習い事も存在も恋すらも。 僕が先に生まれていれば全てひっくり返ったかも知れないのに。 いつだって僕は二番なんだ。 その事実に多少の不満はあったが兄は弟の目から見ても才能溢れる尊敬に値する人物で、時々人間みを帯びた笑顔を見せる彼を心底慕っていた。 それでもやっぱり、兄さんがグリフィンドールに組分けされた時は嬉しかった。 ――兄さんは母さんの期待を裏切った。これで僕は一番になれる。 そう思ったのに、現実は違った。 母さんは毎日のように「ダンブルドアの策略だ」、「あの子は行きたくもない場所に組分けされたんだ」と喚いて遂には専属の癒者が屋敷呼ばれるようになった。 僕が代わりにしっかりせねばと自分を律した。 でも周囲の評価は厳しい物だった。 何をやっても結局は同じ台詞を言われる。 『シリウス君がいればねぇ』 その言葉を言われる度、僕の中の何かが一つ一つ消えていって、兄との楽しい思い出も何もかも全て黒く塗り潰されていった。 大が付く程好きで尊敬すらしていた兄が、大嫌いになった。 学校に入ればそんな柵(しがらみ)からは解き放たれると信じていた。 でもいざ学校に行ってみればそんな事は全くなかった。 どんなに良い成績を取ったって言われるのは哀しい一言。 『君はお兄さんのように優秀だね』 僕はレギュラス・ブラックだ。 シリウス・ブラックの弟、ではない。 それを理解しようとしてくれる人はいなかった。 ただ、一人を除いて。 幼い頃から家族間で交流してたからよく兄と僕と彼女の三人で遊んだ。 彼女と兄は同い年。 二人がホグワーツに行くまではそうでもなかったのだが、行き初めてから自然と兄との方が親しくなった。 ずっとずっと好きだった。 僕という存在を唯一理解してくれる彼女が。 幸せだった。 例え兄との方が仲がよかろうとも。 でも、そんな僕の思いを余所に僕が3年、彼女達が4年の頃に二人は付き合い始めた。 全てがどうでもよくなってその知らせを聞いた直後にたまたま女からの交際の申し出を受けた。 勿論、今まで頑なに断り続けてきただけで、それまでそういう色事がなかった訳ではない。 それから何人かの女と関係を作ったがどれもこれも自分の描く物には程遠く、ある程度付き合ってから捨てた。 忘れる気でいた。 忘れたかった。 でも忘れられなかった。 忘れたくなかった。 そんな時、一つの噂が僕の耳に入って来た。 『シリウス・ブラックが女遊びを始めた』 この時程兄を殺したいと思った事はなかった。 「僕が代わりになります。僕だったら絶対に貴女を傷付けるような真似、しない」 彼女の驚いたような視線が痛い。 「好き…なんです」 俯き、唇を噛みながら搾り出すような声を出す僕に彼女が苦笑いするのが分かった。 血の意味を知りながら。 あと一年、あと一年早く生まれられれば |