リリーの呼び掛けに我を取り戻した。
あの日からあまり眠れていない。
ヴォルデモートが前よりも頻繁に夢に出てくるようになったからだ。
「私とジェームズ付き合う事になったから」
「ホント!?」
私は驚いた。
まさかリリーがジェームズと付き合うとは思っても見なかったから。
自分はてっきり嫌っているのだと思っていた。
だから自分はよく鈍いと言われるのだろうか。
「えへへ」
恥ずかしそうに、でも嬉しそうに彼女は笑う。
幸せそうだ。
「良かったね」
私は自分が辛い状況なのに二人の幸せを心から喜ぶ事が出来る程出来た人間じゃなかった。
多分私の声は虚ろでリリーに不快感を与えただろう。
しかしリリーは無邪気な笑顔で私にありがとうと言った。
その笑顔さえも今は疎ましく感じてしまう自分が嫌だった。
ヴォルデモートに答えてしまってから数日たったある日…――
「?大丈夫?顔色悪いよ?」
隣にいたリーマスが心配して顔を覗き込んでくる。
「大丈夫…」
嘘だ。
本当は気持ち悪くて吐き気がするし、今にも倒れそうな程の目眩もする。
「気にしな…い……」
バタッ
「?!?」
溜まりに溜まった疲労と寝不足が重なり、私は遂に倒れた。
『俺様に力をかせ』
また、か…。
「…嫌よ。何度も言ってるでしょ」
この暗闇の中でヴォルデモートと対峙するのはもう何度目だろうか。
此処は本当に何も無い。
上下すら存在しない。
あるのは果てしない闇だけだ。
しかしヴォルデモートはかつて此処は私の心そのものだと言っていた。
まぁ、あながち嘘ではないかもしれないが。
『ほう。俺様の誘いを断ると?』
「当たり前じゃない」
目の前に立つ男から目を反らす。
見ているだけで嫌だからだ。
『期限はお前が卒業するまでだ』
「え?」
ヴォルデモートの訳の分からない発言に顔を上げる。
『それまでに俺様に付かないならばお前を殺す』
「な!ぅあ゛ぁ゛!!」
突然心臓が切り刻まれたかのような痛みがきた。
『良い返事を期待してるぞ。お前のような逸材を殺したくはないからな。クックックッ……』
「………!!」
「いや…いやーっ!!」
ガシッ
誰かに抱きしめられた感覚に私は我を取り戻した。
「!!落ち着いて大丈夫だから」
「…り…ます…?」
私を抱きしめていたのはリーマスだった。
生身の人間の温かさに安堵を覚える。
「大丈夫?」
「私…」
どうしちゃったんだっけ?
「廊下で突然倒れたんだよ君」
「え…?」
どうやらリーマスが医務室まで運んでくれたらしい。
「大丈夫かの?」
「!…ダンブルドア先生」
「何があったんじゃ?」
「い、いえ…只貧血で倒れただけです」
「わしに嘘は通じんぞ?」
この人はエスパーなのだろうか。
できればダンブルドアの手は借りたくなかった。
私はこの人が苦手なのだ。
それにこの人にこれ以上借りを作りたくない。
あの事 だって本当はほっといて欲しかったのに…。
「……」
「?」
「ヴォ…ト…」
「え?」
「ヴォルデモートが接触をはかってきました」
「なんと!あのヴォルデモートがのぅ!」
「どういう事?」
「すまないが席を外してくれんか?」
「でも…」
「リーマス」
「……はい」
ダンブルドアの笑みの裏に隠された真剣さを悟ったのか、リーマスは渋々医務室から出て行った。
ガチャン
「先生…分かっていたなら聞かないで下さい」
ドアが閉まり、リーマスの気配が完全に遠ざかるのを確認すると私はため息混じりに口を開いた。
「何、詳しくは分かっとらんよ。してヴォルデモートはなんと?」
「私に仲間になれ、と」
「何時からじゃ?」
「入学した時から」
「なんと!」
知っていたくせに。
白々しいにも程がある。
内心の怒りを抑え、平静を装って話を続ける。
「最近まで無視していたのですがついカッとなって呼び掛けに答えてしまって…」
「ほぅ…」
「不覚です」
「仕方ないことじゃよ。今日はもうコレを飲んで寝なさい。強力な眠り薬じゃ」
ダンブルドアから受け取った甘いとも苦いとも言えない複雑な味の薬を一気に飲み干して私は深い眠りについた。
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前回出て来た『あの時』と『あの事』には関連があります。
それっぽい雰囲気ですしね。
しかし『あの事』にはダンブルドアは全面関与してますが、『あの時』には全く関わっておりません。
要するに『あの事』と『あの時』は別のもの、という事です。
これ以上言っちゃうのは勿体ないのでこの辺りで止めておきます;
2007.04.01.SUN Saku .