saudade −サウダージ− ♯35 うそ
「よく校内に入れてもらえましたね」
「あぁ、腐っても君の後見人はマルフォイ家なんでね。ダンブルドアも渋々と言った感じだったよ」嫌味を込めて言ったつもりだったのだがさらりと交わされ、私などに気を使う必要はないという事かルシウスは貴族らしくもなく机の上に足を組んで座る。
「久しぶりじゃないか。元気だったか?」
「元気に見えるのなら眼科に行く事をお勧めしますよ、ルシウス"先輩"」私が『先輩』の部分の語気を強めて言えば彼は口端を吊り上げて久しぶりに見るお得意のニヤリとした顔を浮かべた。
「先輩とは連れないな、我々は家族も同然だろう?」
「あの時マルフォイ家に置いて頂けた事には感謝していますけど貴方を家族だなんて思った事は微塵もありません」私が釈放されたあと、連れて来られたのが当時母方の従姉妹の夫が当主だったマルフォイ家。
当主はあまり私の事を気に入ってなかった…というよりは興味がないみたいだったけど叔母様はよくしてくれた。
コイツは私があの家にお世話になっていた時から私を玩具扱いしていた。
自分は全て知っているぞ、という目で私を見てくる上、私が奴の一言一言に嫌そうな顔をするのを楽しんでいる。嫌いなタイプだ。「酷いな。私はお前をこんなにも愛してやっているのに」
「そういう事は奥さんに言ってやって。虫酸が走るわ」
「おやおや、随分と嫌われたようだ」
「今更でしょう?」ニッコリと笑って早く用事を済ませて帰って頂戴、と言えば急に顔付きを変えた。
「中々に面白い物が出て来たよ」
面白い物、と口では言っているがルシウスのその口ぶりと表情は面白くない、気に食わない、と物語っている。
バサリと机の上に資料を落とされた。
顎で見てみろ、とやられたのでそれを手にとってめくる。「私が魔法省に調べに行った時には既に情報が改竄されていてね。ちょっとツテを使って真実を聞き出したんだよ」
読みだす前にルシウスの様子を伺えば早く読めばいいと顎で資料をさした。
パラパラと紙を捲っていけばアーリアの両親、生まれ、経歴などが無機質に書かれていた。
軽く目を通していき、最後の一枚で手が止まる。
そこには信じられない事が記されていた。「う、嘘…そんな……」
「私の調査に狂いがあるとでも?」首をふるふると振ってそこにある事実を否定しようとする。
それでも、目の前にある事実は変わらなくて、は部屋を飛び出して校長室にかけていった。
「やれやれ、慌ただしい奴だ」取り残されたルシウスは彼女の落として行った資料に挟まっていた一枚の写真を取り、悲痛そうに顔を歪めた。
「それにしても、このやり方は気に食わんな。あの狸爺め……」
呟くように言って、握り潰した。
2012.7.00. 朔