冬季休暇終了2日前になって漸く彼女は皆の前に姿を現した。レギュラスを連れて。
ぎりぎりまで悩んだ末の結論はやはり呪いの事はシリウスには話さずもう彼自身にも関わらない、という事でレギュラスにももう気にしなくて良いと説得して来たらしい。
は迷惑をかけて申し訳ないと謝ったがその場にいた全員がが自分達の元に戻って来てくれるならそれで良いと笑った。
saudade −サウダージ− ♯29 ma chérie
シリウスはジェームズの乗って来た列車の次の列車に乗ってもうじき戻ってくるであろう婚約者、アーリアを待ってスリザリン寮の前に来ていた。
自分の婚約者を疑いたくなどないがは自分を避ける上、リーマスは自分の口からは言えないというのだからが気にかかる事を言っていたアーリアを当たるしかない。
知らないし、関係がないのならはっきりと否定してくれればいいのだ。
振り出しに戻るだけ。
――でも本当に関係があったら?
シリウスが難しい顔をして腕組をして待っていると戻って来たアーリアが自分を待つシリウスを見付けて軽快な足取りで近寄って来た。
「ただいま!待っててくれたの?寒かったでしょ?入って!」
シリウスは寮内に招こうとするアーリアの腕を掴んで引き止めた。
ふっとの腕を掴んだ時の感覚が甦った。
――同じ腕なのになんでこんなに違うんだ……。
「アリー、少し聞きたい事があるんだ」
彼が普段彼女をその愛称で呼ぶ事はなかった。
その愛称を使う時は決まって彼女が何かしてしまった時だ。
深刻そうな彼の表情に嫌な予感が過ぎる。
「な、何?」
「此処じゃなんだから隠し部屋に行こう」
「ねぇ、何?深刻な話?違うでしょ。なら談話室でいいじゃない」
「アリー」
「あぁ、なんならあたしの部屋に…」
「アリー!」
怒鳴り付けるように強く名前を呼べばびくっと肩を震わせこちらを向く。
「どうしちゃったの?シリウス。今日、貴方変だわ。せっかく恋人が帰って来たって言うのに…」
「あぁ、確かに俺は変だ」
「ほら、やっぱり。部屋に戻って寝た方がいいわ。風邪かもしれない…」
「お前を疑ったりしてる」
シリウスはまたしても自分のペースに持って行って話をうやむやにしようとするアーリアの肩を両手で掴んで真剣に言った。
「アーリア、俺はお前を疑いたくないんだよ。だから真実を聞かせてくれ」
昨日一晩降り続いた雪は外の景色を一面真っ白に綺麗に染め上げてくれていた。
白銀の世界を踏み締める度に雪が凝縮されてシャリ、という音が誰もいない広い校庭内に静かに響いた。
リーマス少年はあまり雪が好きではなかった。
その理由は手足は異様に冷たくなるし雪道を歩くローブの裾が濡れるから、という簡単な理由から、というのが周りに言っている建前だ。
本当は人狼に襲われた夜もこんな風に綺麗に雪の積もった夜だったから。
それでも雪が嫌いだとは思えなかった。
楽しい思い出もたくさんあるし、何より日光に照らされ光り輝く雪はの髪のようで嫌うには些か眩し過ぎた。
そのまま森の方へいくらかシャリシャリと雪を踏み締めながら歩いて行く。
あまりの寒さに身体をぶるりと震わせ少しでも肌を露出しまいとマフラーを口元まで上げ直した。
「リーマス…よかった来てくれて」
リーマスは移動授業の合間の一瞬だけでも良いから時間を取ってくれとシリウスに懇願されて此処に来たのだった。
「で、何の用なんだい?には何も言わないで欲しいって言われてるから僕が教えられる事なんてないと思うけど」
聞いても無駄だよ、と突っぱねるリーマス。
俯いたままのシリウスはそのまま握った手をリーマスに突き出す。
だが彼には何を意味するのか伝わらなかったらしくシリウスは手の中に握っていたそれをリーマスの方に軽く放った。
「何だい?これ」
落とさぬようにと慌ててキャッチしたそれは可愛らしいが何処か値の張りそうな子供用の小さな指輪だった。
これがなんだと言うのか。
小首を傾げながらも何かあるのだろうと角度を変えたりしてみる。
よく目を凝らして見てみれば古い物なのか掠れかけで見難いが英語が掘ってあるのが分かった。
―ma chérie
フランス語だ。
別段フランス語に触れた事もないし興味もないリーマスもこれは知っていた。
(たしか意味は…愛しい君へ)
「それ、小さい頃に俺がへ買った物なんだ」
小さく零したシリウスがゆっくりと顔を上げる。
「リーマス。俺、本当は全部思い出してたんだ」
久しぶりの更新あと何頁で一章終わるんですかね?←聞くな
2008.2.21.SAT 朔