「おはようございまーす!一足先に帰って来ちゃいましたよー!お、皆さんもうお揃いで…ってあれ?エバンス先輩?」
ピタリ、とドアを開け放った状態で立ち止まるレギュラスに一同が振り返った。
saudade −サウダージ− ♯27 罅
「レギュラス君、よね?」
「はい、そうです」
リリーが声をかければ魔法が解けたかの様に直ぐさま我を取り戻し開け放っていたドアを閉める。
品定めするようじーっと彼女を見詰めた後、納得したようにあぁ、と手を打った。
「仲直り、出来たんですね。よかったじゃないですか」
レギュラスはニッコリと笑う。
もありがとう、と嬉しそうに笑い返した。
来る前に図書室に寄って持って来たのであろう本を開いてソファーに腰掛けるレギュラスに倣って僕も机の上にあった一冊を持って隣に腰掛けた。
「意外にあっさりだね」
開いた本に目を通しながら話し掛ける。
「だって今此処にいれてるって事は先輩達が認めたからでしょう?なら僕が口を出す所じゃありませんよ」
うん、僕らよりよっぽど大人じゃないか。
なんだか先日までの自分達が妙に恥ずかしく思えた。
「それより僕がいない間、何か変わった事とかありました?」
の体調は相変わらずセブルスの薬で僅かばかり抑えてるだけで悪さに代わりはないし、何か呪いを解くヒントになるような物もいっこうに見当たらない。
冬期休暇中にあったこれと言った出来事を強いてあげるならばリリーとの事だがそれは今話題に出たばかりだ。
あと、何があったか…。
あぁ、シリウスの事があった。
あれからシリウスが割と頻繁に話し掛けて来るようになり、ますます魔法の疑いが強まった。
しかし今更魔法を解いてどうこうするつもりはない、というの意向で僕らは何もしていない。
僕はその事を順を追ってレギュラスに話す事にした。
「あれが?先輩の心配を?ありえませんね」
家を捨てた上、彼女も捨てた兄がやはり許せないのか嫌悪感を隠そうともせず吐き捨てるようにレギュラスが言う。
それで全員の視線が一気にレギュラスに集中した。
「先輩には悪いですが夢かなんかなんじゃ?きっと疲れてるんですよ」
「それが違うのよ。私達にも話し掛けて来るようになったんだから」
ぷいっと不満げにそっぽを向いてしまうレギュラスにリリーが横槍を入れた。
やはり先程の大人という表現は取り消そう。
大人というには些か感情の起伏が激しい。
「僕らが証人だ。なんなら今日の食事の時にシリウスを見ているといい。まだ帰って来ている人は少ないはずだ。だからきっと全員一つのテーブルで食事を摂る事になるだろうから近くで見れるよ」
レギュラスは分かりました。自分の目で確かめてやります、と不服そうな顔を隠しもせずに言い、どかっと不満気にソファーに座り直したのだった。
シリウス・ブラックの唯一無二の弟君、レギュラス・ブラックは静かに怒りのオーラを放っていた。
先程の話を聞いた後、一言も言葉を発さなくなり、発したとしてもぶつぶつと「ありえない…」などと呟くばかり。
眉間の皺はセブルスのそれと並ぶ程に深くなっていて、このまま何時間もこの状態を維持し続ければくっきりと痕が残る事になるだろう。
そんなレギュラスを見兼ねてリーマスが声をかけた。
「そろそろ夕食の時間だし行こうか」
食事ももうじき終わり、殆どの生徒が寮に戻り始めた頃。
未だに姿を現さないシリウスにレギュラスはいい加減痺れを切らしていた。本当に奴は来るのか、と机を指で何度も叩く。
レギュラスの行動にが苦笑いを漏らしたその時、お待ちかねの彼はやって来た。
「本読んでたら寝ちまってた」
本当にぐっすりと寝ていたようで、見事なまでに重力に逆らう毛を必死に頭を撫で付けているシリウス。
「シリウスらしいわね」
「ホント、シリウスらしい」
「シリウス、よだれよだれ」
「ブラック、馬鹿面だな」
「うるせー」
恥ずかしそうに頬を染めて視線を反らし、当たり前のようにの隣に座るシリウスにレギュラスはより一層顔をしかめた。
「なんで、」
今までの態度が嘘のようにあまりに自然に接する彼に怒りを覚えずにはいられなかった。
「散々傷付けたはずなのに、なんでそんな平然としていられるんだ!あんたのせいで例のあの人に呪いまでかけられてっ…」
「レギュラスっ!」
制止の声にレギュラスははっとした。
呪いの事は言っていなかったのか。
「おい、なんだよ呪いって。どういう事だ…?」
シリウスのなんの冗談だと言わんばかりの表情にレギュラスは開き直って言い放った。
「言った通りの意味ですよ」
今更違うと言ったって仕様がない。
冗談でない事などレギュラスの剣幕を見れば明らかだったのだから。
シリウスが遅れて来てくれた御蔭で他生徒に知れ渡る事はなさそうなので助かった。
「僕はこれで失礼します」
訳がわからない、と固まるシリウスをキツく睨みつけてレギュラスは広間から去って行った。
「……呪いってどういう事だよ。説明してくれ」
は頭を抱えてうずくまっていて返事は返そうとしない。
「……」
「……出てって」
「え?」
「出てって!」
シリウスは助けを求めるように周りに目をやったが全員が全員首を横に振って暗に広間から出ていくよう促していた。
それにシリウスは渋々と言った感じで引き下がり「俺だけのけ者かよ」とバンッと勢いよく扉を閉めて出て行った。
残った3人とその場にいた先生達は静かにいつもより小さく見えるの後ろ姿を見詰めた。
罅って漢字書けません。
これって漢検で言ったら何級なんでしょう?
知ってる人がいたら是非とも教えてください。
準二以下だったら泣きます(←それ以降は面倒で受けてない)
2008.12.26.FRI 朔