「何故…何故こいつが此処にいる」
「セブルス、リリーは私の親友よ。そんな言い方しないで」
「そんな事は関係ない!僕は何故こいつが此処にいるか聞いているんだ!」
リリーを庇うように一歩前に出てが言えば彼はそれが余計気に食わなかったのか怒りを増して怒鳴りつける。
その怒りは分からなくもない。
彼にとってリリーは淡い恋心を抱いた初恋の相手であり、シリウス・ブラックに並ぶ憎むべき相手なのだから。
犬猿の仲の人物と恋に落ちたあげく、今では友達さえもぞんざいに扱うような人間に成り果ててしまっている。
あのシリウスと同じようにから離れて行った彼女だ今更何故此処に来たのかと聞きたくなるのば道理である。
何より、僕だって気になっているのだ。
「ごめんなさい」
リリーはセブルスに気圧されて一歩後ずさったに代わって今度は自分が一歩前に進み出て謝罪の言葉を口にした。
「私はあまりにも無知だった。そして無知である事すらも知ろうとしなかった。全部に聞いたの。言い訳も出来ないし、しようとも思わないわ」
真っ直ぐとした視線をセブルスと僕に交互に向ける。
緑の瞳はあまりにも真剣さを帯びていて僕は口も開けなかった。
「今までの事を許してとは言わない。だけど私が貴方達に協力するのと彼女の傍にいる事だけは認めて欲しいの。我が儘は承知の上だし私はの為だったらなんでもするわ」
「リリー…」
は眉を八の字に曲げて泣きそうになりながらも必死に涙を零さぬように堪える彼女を見詰める。
泣いてしまえば僕らがこれ以上彼女を責める事は出来なくなってしまう。
そう考えて彼女は絶対に泣くまいと歯を食いしばっているのだろう。
「僕は…認めるよ。どんな経緯があろうとがそれを許すなら僕達は何も言えない」
君はどうだい?と鍋の前でいつもよりも眉間の皺を濃くするセブルスに聞いてみる。
彼は鍋を掻き交ぜる為、俯いたまま答える。
「僕は君を許さない。でもを助けたいと思うのも、の傍にいたいと思うのも全部君の勝手だ。好きにしろ」
なんて不器用な言い方なんだろうか。
素直に「構わない」と言えば良いものを。
まぁ、自分も人の事を言えたご身分ではないが。
「そ、それは…良いって事?」
顔を上げない彼にリリーが恐る恐る尋ねる。
彼が小さく頷くのが分かった。
「ありがとう、リーマス!セブルス!本当に、ありがとう!」
半泣き状態で僕に飛び付いて来た彼女。
一度ハグすれば今度は調合中のセブルスにまで飛び付くように抱き着きに行く。
危ないだろう!と怒るセブルスを横目にを見遣ればホッとしたような笑みを浮かべていた。
「良かった…」
不意に彼女の頭を撫でてみた。
「リーマス、どうしたの?」
「いや、特に意味はないんだけどさ。それより、良かったね。彼女と元通りに戻れて」
零れるような笑みでうん、と大きく頷くに僕も笑みを深くする。
そんな簡単に許せるような物ではないけれど、彼女も僕達も一緒なんだ。
を救いたい。
その気持ちがあれば今、彼女を許すには十分値するんじゃないだろうか。
「それで、さっきのシリウスがどうのってのは?」
「そうだわ!すっかり忘れてた!」
一応はに聞いたつもりだったのだが、思わぬ事にリリーの方から返事が返って来た。
「昨日……あー……」
ちらりとの表情を窺う。
言ってもよい物かと思案しているようだ。
「私から話すわ」
最近あまり見る事の無くなったキリっとした表情に思わず見惚れた。
時々、彼女が眩しくてしょうがない。
ジェームズじゃないけれどまるで女神のような、そう、そんな雰囲気を突然纏う。
僕はそんな所に惚れたのかも知れない。
「昨日、シリウスと話しをしたの。気持ちに区切りをつける為に」
ぼうっとしながら思考の淵に嵌まりかけていた僕を余所に、話は始まっていた。
取り残されぬように、と姿勢を正して彼女の言葉に耳を傾ける。
「私としては来てくれた事にも既に驚きだったんだけど、もう完全に関係はおしまいってなった後彼が私の腕を見て『ちゃんと食ってるのか』って私の心配をしたの。気まずくなって結局直ぐ別れたんだけど…」
「あいつがか?はっ、ありえんな」
嫌悪感を隠そうともせず吐き捨てるようにセブルスが言う。
「それがありえたのよ。彼、今朝に声をかけたの!おはようって。私も居合わせたんだから確かよ!」
「それが朝挨拶がどうのって言ってたやつかい?」
大きく頷く彼女達に僕とセブルスはちらりと目を合わせて信じられない、と言わんばかりに目を見開きあった。
「シリウスの奴、何か企んでるんじゃ…」
「なんで今更私なんかに?」
それもそうだ。
しつこく付き纏っているでも、嫌がらせをしているでもない彼女に何かをする理由が見当たらない。
寧ろ彼は今まで彼女という対象に完全に興味を失っていたような気がする。
「そういえば、前に言ってたよね。アーリアが『シリウスは自分の物になってない』って言ってたって。もしかして…」
「やっぱりリーマスもそう思う?」
不安げに問うに僕は小さく頷いた。
此処で一つの可能性が浮かび上がった。
彼は魔法をかけられているのかもしれない。
魔法に掛かっているという可能性を思い付かなかった訳じゃない。
ただ、その説を通すにはいくつかの難点がある事を誰しも分かっていたから誰も口にしなかったのだ。
一つ目の難点は彼が私という存在自体を忘れている訳ではないという事。
魔法である一定の人物を記憶から消す事は可能だが、感情を変える、というのは現存する魔法にはない。
もう一つの難点は彼に副作用が起こっていない事。
だいたい、記憶や感情を弄る、というのは碌な事にならないと相場が決まっている。
必ず何処かに障害が出てしまうのだ。
短期間ならばならない事もあるがもし彼がかけられているならば長期間になる。
だから尚更副作用は出るはずだ。
専門的な話になれば難点はいくらでも出てくる。
今上げた事項を見れば分かるように不可能なのだ。
それでも、それでも一つだけ。
その可能性を不可能じゃなくする方法がある。
否、考え方がある、と言った方が的確か。
もしもヴォルデモートが関与していたら?
奴程の力量があれば恐らく今上げた点も難無くクリア出来るだろう。
盲点だった。
考えをアーリアだけに絞っていたからいけなかったんだ。
いや、彼が私に飽きたんだと考えた方が楽だったから気付こうとしなかったのかもしれない。
私は考える事を放棄していたから。
だってそれだったら私に非はない。
好きなだけ愛しい彼に裏切られた哀れな悲劇のヒロインを気取っていればいいだけ。
それのなんと楽な事か。
「私は馬鹿か……最低だ」
恐らく私との接触とアーリアが離れているのが原因で彼はきっと魔法が解けかけているんだ。
でも、だから、
それがなんだっていうんの?
彼の魔法を解く?
それで?
よりを戻す?
馬鹿馬鹿しい。
今更そんな事をする必要が何処にある?
第一その魔法自体わからないのに解き方なんて分かるわけがないしアーリアが休暇から帰ってくればまた元通りだろう。
考えるだけ無駄という物だ。
「ねぇ、。は本当にそれでいいの?」
……正直、分からない。
馬鹿馬鹿しいと思う反面、行動を起こしたいと思う自分がいて。
あぁ、こんなの矛盾してる。
ごめんなさい。
なんでだかわかんないんですけどこの時期って何故かやる気の差が激しくなります。
いや、ホントなんでだろ。
二か月近くもあいちゃった・・・。
お題連載(悲恋10のお題)始めたのでそっちもよろしくお願いします。
2008.12.19.FRI 朔