「、おはよう」
「・・・ん、おはよ」
眠たそうに目を擦る私を見てリリーはふふっと笑った。
「相変わらず朝は弱いのね」
かちゃん、という音と共に目の前に紅茶が置かれた。
彼女のクスクス笑いからしてリリーは何度も私を起こそうとしたのだろう。
「低血圧って訳じゃないんだけどね」
未だクスクスと笑い続ける彼女に苦笑いで返す。
無駄な努力だとは分かりつつも寝癖のついてしまった髪を手で撫で付けてみる。
一瞬直ったかと思えた髪に歓喜の色を見せたが直ぐにそれは落胆の色に変わった。
後で魔法で直そう、なんて考えているとリリーのクスクス笑いが増した。
少し恥ずかしくなりながら「そんなに笑わなくても・・・」と呟いてみる。
「ごめんなさいね、それより今日の朝食は此処で摂るでしょう?」
「あー、うん。ありがとう」
彼女は私に気を使ってくれたようだ。
今は人の少ないクリスマス休暇、食事に行けばどうしても彼、シリウスに会う事になってしまう。
出来れば今日の待ち合わせまでは彼に会いたくない。
彼女は私がNoと言わない事など予測済みだったのか直ぐに屋敷下僕が部屋に食事を運んで来た。
屋敷下僕は頼めばこんな所にまで食事を運んでくれるらしい。
今度からこれは使えるかもしれない。
それから二人で朝食を摂りながら取り留めもない話をして笑い合った。
お昼は屋敷下僕に頼んでサンドウィッチを作ってもらい、厳重に防寒魔法を施して外を散策しながら食べた。
この時期になってしまえば日が沈むのは早いものだ。
そんな風に久しぶりの友との時間を楽しんでいれば直ぐに太陽は見えなくなってしまった。
「ねぇ、本当に一人で大丈夫?」
「リリーってば心配症ね。ちょっと話をしてくるだけだもの、大丈夫よ」
「ならいいんだけど・・・」
「うん、じゃあ行ってくるね」
行ってらっしゃい、と眉を下げながら言うリリーに私も苦笑いしながら行って来ますと返した。
あの場所への足取りは決して重くはなかったが軽くもなかった。
彼は来てくれるのだろうか。
部屋にいた時はがつんと言ってやろう、とか私の方も謝るべきなのかもしれない、とか色々頭に巡らせていたのにいざ目的の場所へ歩み始めるとそれだけが頭を占めてしまって、他には何も考えられなかった。
よくよく考えてみれば彼が来る保証なんて何処にもないのだ。
なんて浅はかだったんだろうか。
意気込んでやって来ても肝心の彼が来ないのではまるで意味がない。
はぁ、と深いため息を吐き出してその場に膝を丸めて座り込んだその時、扉の方から音がした。
「もう来てたのか」
振り向いてみれば眉間に皺を寄せ、不機嫌そうなオーラを隠さないシリウスが気怠そうに立っていた。
「で、何の用?」
「シリウス、私達もう付き合ってないの?」
私は自分を奮い立たせるゃうにきゅっと唇を噛み締め俯きながらも言葉を発した。
意外にも冷静な声が出てよかった。
「は?俺らは自然消滅だろ。まだ付き合ってるとか思ってたのかよ。俺にはアーリアっていう婚約者がいるし」
「……彼女は…」
言っちゃ駄目。
「アーリアが何だよ」
言ッチャ駄目?
何デ?
嘘ヲツイタノハ彼女ダ。
「彼女は病気なんかじゃない!貴方は騙されているのよシリウス!」
シリウスは私の言葉に一瞬驚いたかのような顔をした後、馬鹿にしたようにふっと笑った。
「俺の気持ちが変わらないと分かったら今度はそんなふざけた事を言うのか」
自然と私の手は彼の頬を勢いよく叩いていた。
いや、小気味の良い音はしたが今の私の力じゃ彼は痛くも痒くもないだろう。
あぁ、やっぱり。
信じてもらえる訳なんてないのに。
言わなきゃよかった。
私は所詮彼の中の都合の良い女の一人でしかなかったんだ。
いっそ”後腐れない女”を最後まで気取ってれば彼が私をそんな薄汚い物を見るような目で見る事なんてなかっただろうに。
そうすれば私の想い出には彼との輝かしい思い出と、彼の少し恥ずかしがったような優しい笑顔しか残らなかったはず。
俯いて自嘲気味に笑っていれば、突然腕を掴まれた。
「お前…この腕の細さ……ちゃんと食ってるのか?」
「……え?」
彼は今なんと言った?
私の事なんか忘れ去ったと思っていた彼が心底心配そうな瞳で私を気にした?
そんな、そんな事ある訳ない…でも、確かに今……。
「…あ、いや……」
気まずそうに視線を逸らすシリウス。
同時に掴まれていた腕も放された。
「話…これだけなら俺は帰るよ」
「え…あ、うん。引っぱたいたりしてごめんなさい」
「いや、別にいい…じゃあな」
シリウスはそのまま足早に部屋を去って行き、隠し部屋には放心した私と複雑な想いだけが取り残された。
物凄く余談ですが婚約者ちゃんの名前のスペルはAreaです。
だからアリアでもよかったんですけどね。
まぁその名前に特に意味はないんですが(笑)
シリウス君はどうしちゃったんでしょうね。
彼の裏事情が分かったら貴女は神。
分かった人はこっそり管理人に耳打ちしてみましょう。
2008.10.13.MON 朔