今日から冬休みに入る。
いつ親族が殺されるかわからないこの時代。
殆どの人が普段会えない家族との時間を大切にしようと帰省するらしい。その為ホグワーツ特急は混雑を極めていた。「こんな混み具合なら僕はホグワーツに残りたいですよ。全く…」
そんな中、4人の中で唯一帰省するレギュラスが愚痴を零していた。
「ふふ、しょうがないわよ。家族との時間は大切にしなきゃ」
「それはそうですけどこの混み具合を見て下さいよ!しかも冬休みの帰省時はいつもより車両が少ないんですよ!」
「文句を言っても仕方がないだろう。早くしないと席が無くなるぞ」セブルスの一言に慌てて列車に乗り込むレギュラス。
「それじゃあ先輩方、いいクリスマスを!」
彼はドアから軽く手を振って奥に消えて行った。
「さぁ、寒いし早く戻ろうか」
saudade −サウダージ− ♯23 親友
今日は木曜、シリウスとの約束は金曜。
要するに明日だ。
今日の内に言いたい事でも纏めておこうか、なんて事を考えていると私の部屋の前で揺れる赤い綺麗な髪が目に入った。
その後ろ姿には見覚えがある。
かつて日々を共にしていた大切な友の後ろ姿を忘れるはずもない。
「リリー……」
私の呟きに気付いたのかこちらを振り向く彼女。「リリー、なんで此処に?寒かったでしょ?」
自分を抱えるようにしている事からして長い間待っていたのだろう。
指先が少し震えている。「ううん、大丈夫よ。私貴女と話しがしたくて…」
取り敢えず彼女がこれ以上冷えてしまわぬよう中に招き入れた。
「紅茶で良い?」
「えぇ」煎れたての紅茶をリリーの前に置く。
カチャリ、という陶器の音があまり音のしないこの部屋に響いて少しもの寂しかった。「砂糖は2つ、でよかったよね?」
「…覚えててくれたのね」
「勿論覚えてるわよ」私が覚えていた事に驚いたのか少し目を見開いた後、直ぐに眉を八の字にして困ったように笑った。
そんな彼女に私も苦笑いで返す。「貴女はいつも一つだったわね。それでミルクティーは飲めないけどロイヤルミルクティーは飲めるんだ!っていつも自慢してたわ」
「ふふっ、そうだったね」お互いの癖を覚えている事に驚く程私達は離れていたのだ。
そう思うとなんだか切なくなった。「で、どうしたの?家に帰るんじゃなかったの?」
「急遽家に帰るのは止めたの。どうしても貴女と話しがしたかったから」私と?と首を傾げる。
今更どうしたと言うのだろうか。「なんで突然一人部屋になったの?」
ひやりと汗が頬を伝うのを感じた。
彼女は気付いてしまったのだろうか。「…そ、それはダンブルドアが私が勉強に集中出来るようにって」
「嘘よ!私の方が頭が良いのになんで貴女なの!?」
「…り、リリー……?」「貴女に両親がいないから先生達も贔屓してるんでしょ!それに貴女が純血だからだわ!!私はマグルなりに頑張って勉強してるっていうのに純血だからって貴女は贔屓されるなんておかしい!不公平よ!!」
「リリー、ちょっと待って。少し落ち着きましょう?」
言葉を荒らげ、叫ぶリリーを宥めようとあやすように笑顔を向ければ、彼女は私の頬を叩いた。
「へらへら笑わないで。私を馬鹿にしてるの?……あなたはいつも笑ってられて良いわね」
叩かれた左頬を抑えて私は俯きながら喋る。
「…いい加減にしてよ。いつも笑っていられて良いわね?ふざけないでよ!私がどんな状況にいるかも知らないくせに!!私からどんどん離れて行ったと思ったら今度はいきなり叩かれて、私が貴女に何をしたって言うのよ!!!!」
私が怒鳴ったのに驚いたリリーはその場で固まったままだ。
「…ご、ごめんなさい……私、怒鳴ったりしちゃって……違う、違うの。こんな言い合いをしたかった訳じゃないの……」
「…ううん、私こそ怒鳴ったりしてごめんなさい」お互い謝った後は沈黙が続いた。
彼女のあの綺麗な緑をした瞳を見るのが怖くてどうしても目を合わせる事が出来なくて私は俯いたままだ。
先に口を開いたのは彼女の方だった。「ねぇ、。本当の事を言って。何を隠してるの?」
「………私は別に隠し事なんか……」
「、隠し事をする時に目を反らすのは貴女の癖よ」
「………リリーにはなんでもお見通しね」
「当たり前よ。どんなに離れていようと私達が親友だった事に変わりはないわ」彼女は私の憧れていた懐かしい眩しい笑顔を私に向けてくれた。
それが心地よくて、私もつられて小さく笑った。
「私、もう長くないの」
「え…?」私の口から紡がれた言葉により一瞬にしてリリーに先程まであった笑顔は消えた。
もうこの言葉を紡ぐのに抵抗がなくなってきた。
「卒業式までしか生きられないの」
意地悪な私は、今の台詞でリリーが少しでも絶望すれば良いなんて考えてた。
「…な、何を言ってるの…?嘘でしょ?冗談止めてよ……」
「本当よ。ヴォルデモートにかけられた呪いのせいで、ね。皆にばれないよう一人部屋にしてもらったの」ほら、貴女は絶望を浮かべて私を哀れんだような目で見てくる。
私は渇いた笑いを浮かべた。「そんな…何で言ってくれなかったのよ!」
「何度も言おうとしたわ!でも私の話しなんて一度も聞いてくれなかったじゃない!!私から離れて行ったのは貴女の方よ!」
「違う!私は貴女はシリウスと一緒にいたいだろうと思って……ごめんなさい、怒鳴りたい訳じゃないの…」
「私達お互い勘違いしてたのね。馬鹿みたい」
「えぇ、本当。こんな事ならもっと貴女の傍にいてあげればよかった。」少しの間。湿り気を帯びたような空気が流れて、なんとなしにだが何も言えないし動く事も出来なかった。
リリーは俯く私に近寄って手を握る。「リリー…?」
彼女は泣いていた。
子供のように大声ではなくまいと鳴咽を堪えているのか美しいその顔は歪んでいる。
ごめんなさい、とひたすらに謝る彼女。
彼女の目からボロボロと零れ落ちる涙を見て私は苦笑いした。「馬鹿ね、なんで貴女が泣くのよ」
「だって…わ、わたし……私……」ずっと一緒にいたけど、リリーの泣き顔を見たのはこれが初めてだ。
先輩から呼び出しをくらった時も、妹と険悪な仲になってしまった時も、ジェームズのせいで他の女子から仲間外れにされてしまった時も、彼女はどんな事があってもけして他人に涙は見せなかった。
私は知っている。
彼女がいつもトイレに行って独りで泣いていた事を。
だからこそ嬉しかった。
彼女が私の為に泣いてくれた事が。「ねぇ、リリー。今日は一緒に寝ない?」
同じベットに寝るのなど何年ぶりだろうか。
シングルベットにもう成人間近の私達が入るというのは中々に窮屈な物だった。
それでも、悪くない。
そう思えるのは何故だろう。「、リーマスは貴女の事知っているの?」
「うん、ずっと一緒にいたからバレちゃった。セブルスやレギュラスも知ってる」レギュラスという単語にリリーは目を丸くした。
私が彼と交流があるとは露ほども思っていなかったのだろう。「レギュラスと仲がよかったのね、知らなかったわ。じゃあシリウスは?この事知ってるの?」
私は静かに首を振る。
リリーは顔を歪めた。「明日ね、今までうやむやになってたシリウスとの関係をはっきりさせてこようと思うの」
もうシリウスに手紙は出したから。
「もし、もしもシリウスと昔みたいに戻れるなら、打ち明ける」
「そっか。貴女が決めた事ならそれでいいわ。頑張ってね。余りに酷い事を言って来たら私に言ってちょうだい!」ぶん殴ってくるから、と笑いながら言うリリー。
私は握っていたリリーの手を握り直す。
私も自然と笑顔が零れる。「ねぇ、。やっぱり私の事怒ってる?」
「怒ってないって言えば嘘になるけど、もうどうでもいいの」私の返答にリリーはwhy?と首を傾げる。
「だって貴女は今こうして私の手を握ってくれているんだもの」
私はね、それで満足だよ。
前回犬をお呼び出しか!?とか言ってましたがワンクッション。
だってリリーの事解決しないと先に進めないんだもの。
別に出し惜しみしてるとかじゃないんだから!
それにしたっていいね。友情って。
羨ましい。
2008.09.10.WED 朔