レギュラスはそう言って気持ちを落ち着かせるように足を組みなおす。
後輩の的を射た言葉にセブルスは厳しい顔をして頷いた。
「そうなの、だから随分頑張ったみたいね・・・」
そうしてはまた語りだす。
それから毎週ダンブルドアはやって来た。
いや、もうその頃の私には時間という概念はなかったが、恐らくそのくらいの間隔だったと思う。
私にとってそれは唯一の救いだった。
誰かと話す事でなんとか自我を保つ事が出来る。
なんでもダンブルドアはホグワーツで校長をしているのだという。
此処を訪れる度にホグワーツで起こった事件や生徒達の話、特徴ある先生方の秘密など色々な事を面白おかしく話してくれた。
彼の話を聞いて何度ホグワーツに通う事を夢見ただろうか。
比喩的表現だけでなく本当に夢に迄出てきた。
でも、私には一生縁のない場所だ。
私は自分の罪を此処で一生償わなければならないのだから。
「私も…行きたかったな、ホグワーツに」
いつも聞いているだけの私が言葉を発した事にダンブルドアは一瞬目を見開いたが、直ぐにいつもの柔和な笑顔を浮かべた。
「わしがなんとしてでも行かせてみせるよ」
最初の内はもしかしたら此処から出られるんじゃないかって淡い期待も抱いていたけど、もうそんな馬鹿みたいな事は諦めた。
確かな罪を背負った私が此処から出られる筈がない。
夢は見ない事にした。
叶いもしない夢を見ても虚しさがつのるだけだから。
「もう直ぐ、君が此処に入って1年になるのじゃな・・・」
もうそんなに経つのか。
いや、まだそれしか経っていないのか、と言う方がいいだろう。
これから先の事を考えればそんなに、という表現は似つかわしくない。
「すまんのぉ」
いつも彼は最後に眉を下げて辛そうな顔で謝ってから帰る。
私には謝られる意味が分からなかった。
彼は何故かそれ以来此処に現れなくなった。
中々来ないのではなくて自分の時間の感覚がおかしいのかも知れない、と月がのぼる度に壁に傷をつけてみたりもしたが時間ははっきりと経っていた。
ついに彼にも見捨てられたのだろうか。
そう思っていた矢先に魔法省の大臣が此処を訪れた。
魔法省大臣ともあろうお方が何の御用か。
そう言いたかったが、喋る事を忘れかけていた私の口から音が漏れる事はなかった。
その代わりに大臣との無言の睨み合いが続く。
一体何分睨み合っていただろうか。
いや、相手はそんなつもりなど微塵もなかったのかも知れないが、少なくとも私には睨んでいるように見えた。
まるで「お前など汚らわしい」とでも言うように。
暫くして小奇麗なローブを纏った彼は私にこう言った。
「・S・、貴公を釈放する」
私は一年の時を経て漸く地獄から解放された。
「でも、それは私にとって……いや、なんでもない」
は何かを言いかけて止めた。
何を言いたかったのかは分からないが触れてはいけない、そんな気がした。
「うん、まぁそんな感じ、かな」
彼女は苦笑したような表情を見せつつ自分に言い聞かせるように話を終わらせた。
「大変、でしたね。そんな簡単な言葉で片付けられるような事じゃないとは思いますけど、今の僕にはそれしか言えない。僕は過去の先輩を直接知る訳じゃないから。でも、でも…!あんた頑張ったよ。もう良いじゃん、強がらなくてもさ。僕らをもう少し頼ってくれたっていいじゃないか…。抱え込む必要なんてないんだ!」
余程の過去に衝撃を受けたのだろう。
感情の高ぶりが口調にも表れている。
いつものレギュラスなら丁寧な言葉遣いを怠る事なんてないのに。
「そうだな、お前は一人で抱え込みすぎだ。少しは僕達を頼れ」
レギュラスに同意するように深く頷くセブルス。
「僕も、そう思うよ。は僕たちに気を遣い過ぎ。僕らはそんなに頼りないかい?」
「そ、そんな事ない!皆は凄く頼りになるし、いつも私は救われてる!お願いだからそんな事を言わないで!」
ちょっとばかり意地悪な質問。
心根の優しい彼女なら必ず慌てて訂正するとわかっているのにわざと聞いてしまう。
そんな君の姿に少し安心感を覚えるから。
「うん、ありがとう。じゃあ今度は僕らの方から言わせて。『僕達と友達でいてくれますか?』」
「っ…!も…勿論!」
彼女が目を細めた際に溜まっていた涙が零れ落ちる。
それは微かに教室の明かりに反射して光った。
君があんまり綺麗に笑うものだから僕達は……―――。
ねぇ、。
君の辛さを分かってあげられなくてごめん。
君は僕達と辛さを分かち合いたくても出来なかったのに。
ごめん…ごめん、。
前回更新から一ヵ月以上も経っちゃった。
携帯版の方は更新してたんですけどねー。
頑張って更新するぞー
2008.08.02.SAT 朔