いつもの空き教室は彼女の発作を少しでも抑える為の薬品の臭いとレギュラスが持って来た高級な紅茶の甘い香りが絡み合い複雑な臭いを放っている。

「せんぱーひ。そのにほひなんとかならなひんですか?せっかくの紅茶が台なしじゃないですか」

臭いに顔をしかめ、鼻を摘みながら喋るレギュラス。
彼の発言は虚しくも我慢しろ、の一言で片付けられてしまう。

「服にも臭いが着いちゃいますよー」

まだ文句を垂れるレギュラスを呆れた目で一瞥し、また作業に集中し始めるセブルス。
どうやら無視を決め込むらしい。

レギュラスは無視を決め込んだセブルスに気付いているのかいないのか未だにぶつぶつと文句を垂れている。







saudade −サウダージ− ♯17  不変の未来











ふと、セブルスが顔を上げた。


「……はどうした?遅いな」

「そういえば遅いですね。リーマス先輩なんか知ってます?」


紅茶を掻き交ぜる手は休めずにこちらを振り向く。


「あー…は……」






僕は先程の失態を二人に話した。






「何故追い掛けぬのだ。馬鹿者め!」

「………」


セブルスには怒鳴られ、レギュラスからは無言の重圧を送られた。


「ほら、の所に行くぞ」

「…セブルスは気にしないのかい?」

「何を気にする必要がある。だって人間だ。何か理由があっての事だろう?」




あぁ。
なんで僕はいつも悪い方に考えてしまうんだ。
セブルスの言うとおり。
きっと何か理由があったんだ。
それを聞きもしないで拒絶して。

僕は逃げてただけじゃないか。





「…うん、行こう。のところに」

「僕は行きませんよ」


さっきから何も言わなかったレギュラスが不機嫌そうに口を挟んだ。


「何故だい?」

「気に食わないんですよ・・・」


何が、とは聞けなかった。
レギュラスに行くなら早く行けと促されてしまったから。













「なんで着いて来なかったんだろう」

「さぁな。あいつにも思う所があるんだろ」


まぁ、レギュラスに限ってを見限ったりはしないと思うけど。
彼はを恋愛対象というよりは実の姉のように慕っている。
いや、どちらかと言うと母親か?
本人は気付いていないようだけど。


「…ねぇ、セブルス」

「なんだ?」

「ひたすらに走ってるけどが何処にいるか知ってるの?」

「…………………」


セブルスは急ブレーキをかけて廊下のど真ん中に立ち止まった。
僕もそれに倣って立ち止まる。

まさかとは思うが本当にてきとうに走っていたのか。


「……はぁ。僕は一回寮に戻って誰かに聞いてみるよ」

「…うっ……頼んだ」




本当は忍びの地図を見るだけなんだけどね。


僕は寮に向かって止まっていた足をまた動かした。














  * * *












「ジェームズ!忍びの地図・・・っていないし」

自室に戻ってジェームズに忍びの地図を借りようと思っていたのだが、ジェームズは部屋にはいなかった。

またか、とため息をつく。

最近この部屋には誰もいない。
4人が集まるのは眠る時だけ。
シリウスにいたっては夜中にもいない事がある。
会話だって殆どない。

ジェームズは常にリリーの所、
シリウスはアーリア・フォールの所、
ピーターは何処に行ってるんだか知らないけど最近レイブンクローに仲の良い子が出来たらしい。

あぁ、僕も達の所に年中行ってるから人の事言えないや。


『悪戯仕掛け人』

この名前を聞かなくなってどれぐらい経つだろう。
今まではいつだって、何をするにも一緒だったのに。


僕はジェームズのベットの下に転がっていた地図を拾いあげた。

誰もいない閑散とした部屋は、まるで僕らの切れかけている繋がりのようで、

目を背けるように部屋をあとにした。













「我、よからぬ事を企む者なり」


この紙の感触も、
この合言葉も、
この何処からともなくやってくる浮ついた感じも。

全て懐かしく感じる。
そんなに長期間使ってなかった訳じゃないんだけど。
ん?数カ月は長期間というのだろうか。
まぁ、どうでもいいや。

僕今急がなきゃいけないのに凄くのんびりしてる。
なんでだろう。


「あれ?」


地図にの名前がない。
見落としていないかもう一度確認するが、やはり何処にも彼女の名前はない。

どういう事だ?
この忍びの地図は寮の個室から叫びの屋敷まで載ってるっていうのに。

何故?
まさかヴォルデモートが…?

全身に寒気が走った。


早く彼女を探さなくては。












落ち着け。
落ち着くんだ。
ヴォルデモートが干渉してるとは限らないじゃないか。

校内にいないという事は校外か?
でもこの危ない今の時代にダンブルドアが易々と生徒が外に出るのを許す筈もない。
じゃあ僕らが知らない隠し部屋がまだあるのかも知れない。

そこで僕は昔、悪戯仕掛け人の全盛期だった頃にしたシリウスとの会話を思い出した。


『機嫌いいね』
『おぅ!とデートするのにすっげぇ良い所見付けてな』
『何?僕達が知らない所?』
『さぁなー。内緒だ』
『えぇー』


まさかあの時シリウスが言ってた場所に…?
それなら地図に載っていないのも頷ける。
がそこにいるかは分からないけど、少しでも可能性があるのならば探そう。

もう一度地図を広げシリウス・ブラックの文字を確認する。
先程広げた時に魔法を解いていなかったからスムーズに探せた。

シリウスはスリザリン寮の前だ。
大方フォールを送っていたんだろう。
僕はスリザリン寮がある地下の方に足を向けて歩きだした。








「ちゃんと温かくして寝ろよ」

「分かってるわ。シリウスってば心配性なんだから」


曲がり角の先からクスクスと言う笑い声が聞こえた。
アーリア・フォールとシリウスだ。


「シリウス!」

「リーマス、どうした?」

「ミス・フォール、悪いけどシリウス借りるね」

「?えぇ、良いわよ。今調度送ってもらった所だし」

「ありがとう。シリウス、ちょっと来て」


僕はシリウスを廊下の隅まで引っ張った。
フォールがいたら話を邪魔されかねないからね。


「お、おいリーマス!なんだよ突然!」

「教えて欲しいんだ」


シリウスは何を?と首を傾げる。


「君が昔とよく会っていた場所を」

とよく会ってた場所?…あー何処だったっけ?確か四階のどっかだったと思うけど」

「四階?それ以外覚えてないの?」


あんなに嬉しそうにしてたのに?

数秒思案するように顎に手を宛てて黙り込んだ後、軽く眉を八の字にして覚えてない、と言った。


「なんかあんのか?」

「いや……」


言うべきなのか?
がいなくなったって。
でも、言ってどうなる?

きっと、何も変わらない。


「なんでもないよ。ちょっと気になっただけ。ありがとう、じゃあね」

「そうか?おー、じゃあな」















此処で僕がシリウスに言っていたら何か変わっただろうか。
いや、変わりはしないな。
例え言ったとしても、
ただ少し時期が擦れるだけだ。






  だって僕らがこれから迎える結末は誰にも変える事など出来ない物だから。






















物語の結末は簡単には変わらない
全ては神の御心のままに


なんてちょっと格好つけてみたり。
あ、日記で言ってた『サウダージについて語ってみようぜの会』書かなきゃ。
ネタバレ?何それ。美味しいの?

後で日記に書いときます!


2008.05.03.SAT  朔