砂糖をたっぷりいれた紅茶の湯気が甘い香を漂わせ、まるで何かを誘うようにゆらゆらと立ち上る。

此処はいつもの空き教室。
今は占い学の時間で僕達の中で唯一占い学を取っているはいない。
レギュラスはどうせ聞いても実にならないの授業だから、と魔法史の授業をサボってきたらしい。
よって今この狭いとも広いとも言えぬ教室に男三人でいるのである。
組み合わせ的にあまり気の進むものではないが、の為だしそれは構わない。

構わないが…







saudade −サウダージ− ♯16  噂と事実












「さっきから何?」



ちらちらとセブルスが視線を送ってくるのだ。
彼は僕がそれに気付いていないとでも思っていたのかティーカップを危うく落としそうになっていた。


「あー……その、なんだ。……えっとだな……」


なんと言っていいか思案しているのかごにょごにょと中々言い出さないセブルスに軽く眉をひそめてやる。


「…お、お前はの生い立ちを知ってるか?」

の生い立ち?」


突然のセブルスの発言に僕は戸惑った。
やっと話したと思えばの生い立ち?
訳が解らない。


「あぁ、知ってるか?」

「さぁ?両親がいないって事ぐらいしか僕は知らないよ。どうして?」


また思案するように手を顎にあてて横を向くセブルス。
なんなんだ。


「いや、変な噂を聞いてな…」

「変な噂?」

「あ、それもしかしてスリザリンの間で広まってたやつですか?」

「あぁ」

「?」


納得しあうゼブルスとレギュラスに一人訳の分からない僕ははてなマークを浮かべていた。


「で、どんな噂なの?」

「僕も詳しくは知らないが、が自分の両親を………」



両親を?









「自分の手で殺めたらしい」









が両親を殺した?









「いつ…「八歳の時だよ」


何故かは分からないが、ゼブルスがぎょっしてレギュラスの方を振り返った。


「動機も殺害方法も明らかになってない。というか魔法省が断固として公表しようとしない」

「なんでお前はそこまで詳しく知っているんだ?」


だから驚いたのか。


「噂を聞いた後、直ぐに家の者に調べさせましたから。でもダメ。詳しい事はなーんにも出てきませんでした」


レギュラスは両肩を上げてお手上げ、というようにおどけて言った。

なんだやっぱり只の噂だったんじゃないか。
本当だったらは今ホグワーツにいない筈だし。
何も出てこなかったって事は本当はなかったんだ。
それにがそんな事する筈ない。


「所詮噂なんだから。何も出てくる訳ないじゃないか」

「いえ、事件があったのは本当です」

「え?」

「確かに先輩の両親は死んでる。それに先輩は一度アズカバンに行っています」

「アズカバンに!?」

「はい。でも一年で戻って来てます」


ありえない。
人を殺してアズカバンから釈放されるだなんて…。
魔法界には未成年に対する法の緩和はない。


「どういう事だ?」

「ダンブルドアが助言したんですよ」

「先生が?」

「『はもう何もしない。何も出来ない』って」

「……」


何も出来ない?

いったいは何をしたんだ?


「それで?」

「それでもやっぱり魔法省は認めてくれなくて、もめにもめてなんとかアズカバンから出されたらしい。それ以外はさっぱり」


レギュラスはブラックの名を使っても調べられないなんて…と盛大に溜息をついた。












  * * *













が両親を殺した?
嘘でしょ?

どうしても信じられなかった。


でも、もし本当なら話が合う。
その時に助けられたから彼女はダンブルドアに負い目を感じているんだ。



僕が考えにふけっていると向こうからがやってきた。



……」

「どうしたの?リーマス。元気ないけど…」


聞くべきなんだろうか…。
君は両親を殺したのかい?なんて聞いてどうする。
普通そんな事聞かれたら誰だって怒る。
でも、真実を確かめたいなら本人にきくしか……。

「…

「何?」

「君の両親って…」

「死んでるよ」


僕より先に言葉を紡がれてしまった。


「私が八歳の時にね」


無理矢理笑おうとして失敗したのか顔の筋肉が引き攣っている。
まさか本当に…。


「噂…聞いたの?」

「…うん」


「やっぱりフォールが流したのか…」


彼女の呟きを僕は聞き取れなかった。


「何処まで聞いた?」

が両親を殺したって…本当なのかい?」

「……うん。黙っててごめんね」

「……」


長い沈黙の後、(いや。実際は数秒の事だったのだろうけど僕には凄く長く感じたのだ)が口を開いた。


「良いよ」

「え?」

「こんな奴と一緒にいたくないでしょう?離れて良いよ。ごめんね。じゃあ」

!待っ………」


待て。
僕は今を引き止めてどうするんだ?

なんて言葉をかける?

人殺しだなん気にしないで今まで通り過ごせるのか?

自信がない。

自分はそんなに出来た人間じゃないんじゃないか?


理屈なんて関係ない。
直ぐに彼女を追い掛けて抱きしめでもすればよかった。

恰好つけた言葉なんかいらない。

ただ傍にいたい、と伝えればよかっただけなんだ。












でも、僕の足は動いてくれなくて、





との距離が広がるだけだった。























リーマスのばかちん!!←

明日にでも続きをアップしたいところなのですが残念ながら明日から旅行に出かけてしまうので更新出来ません。
早く続きを読みたい方は携帯版の方が若干更新早いので携帯版をどうぞ。


2008.04.27.SUN  朔