私が三人に呪いの事を打ち明けてから半年近くが経った。





saudade −サウダージ− ♯15  狂乱女の夢










後一ヶ月もしない内にホグワーツに来て7度目のクリスマスを過ごす事になる。

三人は私の為に未だに呪いを解く方法を探してくれている。
半年もの間一度も弱音を吐かずに。
セブルスは発作を抑える薬を作ってくれるし、レギュラスはブラック家の当主の蔵書まで勝手にひっくり返して呪いについて調べてくれているし、リーマスは沢山の知識を頭に叩き込んで応用でどうにかならないかと模索している。


そろそろ皆に話すべきなのかも知れない。

私の過去を。

これだけして貰っておいて黙っている事なんて出来ない。
もし私の過去を聞いて私と一緒にいたくないと思うならそれでも構わない。
本音を言えばそれは辛いが私に皆を縛る権利はない。




「ねぇ、貴方達に話さなきゃいけない事があるの。今まで黙っててごめん。でも、まだ私に勇気が付かないから一日待って」

「別に良いですよ?」

「そうそう明日話してくれるんだろう?それなら構わないよ」

「僕も構わない。秘密を明かすのは勇気のいる事だからな」





本当に優しい人達だ。






「ありがとう」






三人には自らの口で話したかった。
一人で先になんか戻らなければよかった。

そうすれば皆に言えたのに。

















私は先に戻ると言って一人でいつもの空き教室を出た。
皆にあそこで明日話すと公言しなければせっかく出た勇気が直ぐに折れてしまいそうだったから。
絶対明日は言うんだ、と自分に言い聞かせていると、廊下の向こうから誰かが来る。


「あら、ミス・じゃない」


一番見たくない顔にあってしまった。


「アーリア・フォール…」








シリウスの、婚約者。








睨み付けるようにアーリアを見据える。
それを気にも留めていないのか満面の笑みで返された。


「少し話でもしない?調度クッキーを食べながらお茶をしようと思ってた所なの。どう?」


毒気のない笑顔で言われれば断る訳にもいかない。
私は彼女に連れられるがままに空き教室でお茶をする事になった。























「砂糖はいくつ?」

「あ、いらないわ」

「いらないの?大人なのね!私砂糖がないと飲めないの…。貴女の事って呼んでも良いかしら?」


彼女の友好的な態度に自分が彼女に嫌悪感を抱いていたのが申し訳なくなった。


「いいわよ。私もアーリアと呼んでも?」

「勿論よ!」


彼女は私の所まで紅茶を運んで来て、魔法でクッキーを出す。


「こうやって話すのは初めてね。話したのなんて幼い頃の貴族のパーティーの時ぐらいだものね」

「え、えぇ…」

「あ!はそういうのにはもう出ちゃいけない事になってるんだっけ?ごめん私ったら…」

「いいのよ。気にしないで」

「そう?…あ、これお母様に送って頂いたの!美味しいでしょ。こんなものを作ってくれるお母様がいるなんて素敵だと思わない?」



なんなんだ?
私に両親がいないのを知ってて何故そんな話を?



「…素敵なお母様ね」

「でしょう?自慢の母なの。父も素晴らしい方なのよ。貴女のご両親も私の両親ぐらい素晴らしい方々だったらよかったのにね」


 何ガ言イタイ?


「そうだったら貴女に殺されずにすんだかも知れないのに」


何故知っている?
それは魔法省のトップシークレットだ。


「何の事かしら?」


とにかく平静を装うしかない。
良い人なのかも知れないと一瞬でも思った自分が馬鹿だった。
今彼女は一番醜い笑みを浮かべているではないか。
私はなんて馬鹿なんだ。


「惚けないで。私の父は魔法省に勤めているのよ?トップシークレットでもわかるわ」

「私は此処にいるじゃない。本当だったらアズカバンにいるはずよ。もし本当だとしてそれを貴女に教えたという事がばれるのはお父上にとって良い事なのかしらね」


口端を引き上げて余裕を見せる。
アーリアは顔を引き攣らせた。
此処で言い負かされる訳にはいかない。


「っ……。人殺しが!あんたなんかにシリウスはやらないわ!彼は私の物よ!!」


シリウスの名前にぴくり、と反応する。


「もうとっくに貴女の物になってるじゃない」

「なってない!シリウスは…!


シリウスは?
何?


「とにかく。私は貴女にシリウスは譲らないわよ。病気だと嘘をついてやっとこっちを振り向いてくれたんだから」

「え?貴女持病持ちじゃなかったの?」

「ただの軽度の喘息よ。魔法でどうにでもなるような、ね」

「貴女、誰かの助けなしでは生きていけないって………デマを流したのね」

「えぇ。それで見放すような男じゃないでしょ?」

「…………」


彼女の口が綺麗に弧を描く。
下を向いていて目はよく見えない。
だが、微かに見える目には獲物を捉えた獣のような光が。
正直、気味が悪い。


「私は入学する前からずーっとシリウスが好きだったの。親に頼み込んで婚約者にまでしてもらった。でも、シリウスは私に目もくれなかった」

何故だかわかる?と問いながら、不気味な表情で彼女は顔を上げる。

「貴女がいたからよ。確かにシリウスは遊びで女と付き合う事はあった。でも、心から愛していたのは貴女だけだった…。シリウスに唯一愛された貴女が憎かった」


彼女は視線を横に向け、授業で使う手頃なクッションを掴むと、


「貴女が、」


綺麗に伸びた爪を立て、


「憎くて、」


それを引きちぎった。


「憎くて、憎くて、憎くて、憎くて」


彼女は無心にクッションを引き裂く。


「殺してやろうと思ったの」


クッションを引き裂く手を止め、また私の方を向き、でもね?と続ける。


「私はある人に知恵を授かったの!素晴らしい、素晴らしい知恵をね!!だから私はシリウスを形だけでも手に入れる事が出来た!!!!……人を殺さずとも、ね」


天井を向いて笑いだす彼女。
完全に自分の世界に浸っている。


「何を言っ「おっと…お喋りが過ぎたわね」


彼女はそのまま軽やかにドアを開けてこちらを見ないまま言う。


「あ、そうそう。私の事アーリアなんて呼ばないでね。虫酸が走るわ。」


くるりと首をこちらに回した。



「じゃあね。人殺しさん?……うふ、ふふふ!!あはははははははは!!!!!






















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うぅ…女って怖い……。


2008.04.17.THU  朔