「先生!は?は大丈夫なんですか!?」

医務室にスネイプ先輩の悲痛な声が谺ました。


saudade −サウダージ− ♯14  友






「先輩、落ち着いてください。此処は医務室なんですよ?」

僕は医務室だというのに騒ぐ先輩を冷静に手で制止する。

「で、先生。先輩の容態は?」
「今は問題ない。もう直ぐ目を覚ますじゃろ」

ふぅ、よかった。
僕が先生の言った事に胸を撫で下ろすと隣でスネイプ先輩も同じように胸を撫で下ろしていた。

「何があったんですか?」
「………わしの口からは言えん。本人に聞きなさい」

どういう事だ?
誰かに襲われた訳じゃないのか?
死喰い人や森にいた何かに襲われたのなら校長の口から生徒に説明するべきだろう。
本人の口からという事は先輩が何かやらかしたのか。

「彼女が起きるまでここで…」
「もう起きてますよ」

閉ざされたカーテンの向こうから女性にしては少しばかり低めのアルト音がした。
まぁ、僕の言う女性の声はブラックという名にたかってくるような輩の事だから実際そんなに低くはない。
寧ろ快い高さだ。

白いカーテンに映る影が起き上がるのが分かったが、先輩の向こうにいるらしいマダムが無理矢理ベットに押し戻して「病人は動くな」と怒っている。

「君らと彼女が話す前にわしも彼女に話があっての。ちょっと待っておれ」

校長は「いっぺんに行くとポピーは気を悪くするしの」と悪戯っぽくウィンクしてカーテン向こうに消えた。

多分僕らに聞かれたくない事を話すのだろう。
マダムが気を悪くする、というのは確かにそうだがダンブルドアなら融通が効くはず。
要するに僕達に対する建前だ。
チラリと隣にいるスネイプ先輩を見てみたが、その事には気付いていないらしい。

もしかしたら自分はとんでもない事に巻き込まれたんじゃないだろうか。
今ならまだ引き返せる。
だが、興味があるのも事実だ。

「たまには面倒事もいいかも知れませんね…」

だって退屈凌ぎになるから。

「ん?何か言ったか?」
「いえ、何も」

まぁ、何かあったら全部他人のせいにすればいいさ。

そんな事を考えて、僕は好奇心に負ける事にした。








 * * *








目を覚ますと目の前には真っ白な天井が広がっていた。

此処は……?

その見慣れた白さは何処だったか思い出すのはまだ覚めやらぬ私の頭では中々難しい。
頭を捻らせ周りを確認すれば私は真っ白なシーツの敷かれたベットに横たわっていて、これまた真白い清潔なカーテンで外部の光景が遮断されていた。

あぁ、そうだ。
この光景は医務室だ。


「先生!は?は大丈夫なんですか!?」

遮断されたカーテン向こうから悲痛な声が聞こえて来た。
その声は、セブルス…?

「先輩、落ち着いてください。此処は医務室なんですよ?」

こっちは誰だろう。
何処かで聞いた声だ。

「で、先生。先輩の容態は?」
「今は問題ない。もう直ぐ目を覚ますじゃろ」
「何があったんですか?」
「………わしの口からは言えん。本人に聞きなさい」
「彼女が起きるまでここで…」

「もう起きてますよ」

私が起きてる事など分かっていただろうダンブルドアに半分呆れながらため息混じりに突然言葉を発すれば少し空気が揺れた。
私は起き上がろうとしたがやってきたマダムに押し戻された。

ぼそぼそと何かを話していたかと思ったらカーテンが少し開いて、ダンブルドアが入って来た。
交代するようにマダムは出て行った。

「気分はどうかの」
「良好に見えます?」
「そうじゃのぅ」

食えない人だ。

「で、何ですかわざわざ校長直々に」
「何、一言アドバイスをしに来たんじゃよ」

アドバイス?

「誰かを頼るという事は大切な事だ」

信じられなかった。
私が頼っても何も出来ないこの人の口からそんな言葉が出てくるだなんて。

「…じゃあ、私が貴方を頼ったら貴方は私を助けてくれるんですか?」

私の言葉にダンブルドアは黙り込んでしまった。

「無理でしょう?ほら!頼ったって意味ないじゃない!知ったような口を聞かないで!!」
「確かに…君は卒業までしか生きられん。だがわしは諦めんぞ!おぬしが生き残れる道を探してみせる」
「…………そこにいないで入って来たら?どうせ聞こえてるんでしょう?」

そろりとカーテンが開いてセブルスとレギュラスが入って来た。

…さっきの話は……」
「本当よ。ヴォルデモートの呪いなの。誰にも解けはしないわ」
先輩…」

私が無性に可笑しくなってあはははと笑いだせば、二人は何が可笑しいのか、と顔を歪めた。

「笑うしかないじゃない。だって後一年よ?」

笑いの意味を突き付けられた二人はより顔を歪める。

哀れまないでよ。
私は哀れなんかじゃない。

「わしは下がる。おぬしらで話し合いなさい」

ダンブルドアはカーテン向こうに消えて行った。


「話し合う?何を?話したって何も変わらない」

ダンブルドアの気配が無くなって、私は漸く口を開く。

……」
「話したら治るの?それなら遠の昔に話してるわ」

「第一、あなた達には関係な「!!」

驚いて目を見開いた。
だってセブルスは私に向かってこんな顔をして怒鳴った事はなかったから。

「ふざけるな。僕達は君が倒れてるところを助けたんだ。関係ないとは言わせない」

セブルスのそんな顔は知らなかったし、予想以上に彼の力が強い事も腕を勢いよく掴まれて初めて知った。

「……………ごめんな、さい」

私は罰が悪そうに目を反らす。
子供みたいに喚き散らして馬鹿みたい。
どうせ呪いの期限はまだだから死にはしないとは言え、私は助けられた側なのに…。

「話してくれるな?」
「……うん」

私はこくりと頷いた。














セブルスは最初は驚いていたものの、優しく微笑んで「辛かったな」と頭を撫でてくれた。
レギュラスは流石ブラック家の次男、といったところ。
途中普通の人には分からない程度に瞳孔が動いた程度だ。

、一緒に戻ろう?」
「えぇ」

リーマスやセブルス、レギュラスに打ち明けたお陰で少しだけ、本当に少しだけだけど心から笑えるようになった。

リーマスと他愛もない話しをしていれば前方からスリザリンのネクタイをした二人組が来た。
セブルスとレギュラスだ。

先輩!」

大量の本を持ったレギュラスがとてとてとこちらに駆け寄ってくる。
あれから彼は私の事を先輩と呼ぶようになった。
犬みたいなシリウスとは違って猫のように掴み所のない子だと思っていたけど随分と懐いてくれたようだ。

「えっと…その本達は?」
「ふふふん。僕良い事考えたんですよ!その名も『先輩を助け隊』!」
「はっきり言わせてもらうがお前にはネーミングセンスがない」
「えぇ!?酷いですよ先輩!スネイプ先輩が虐めますリーマス先輩!」
「たしかにそれじゃあそのまんまだね。で、だいたい意味はわかるけどいったいどういう事だい?」

ちゃんとリーマスにはセブルス達に話したという事を話した。
最初は怪訝そうな顔していたけど今じゃなんだかんだで冗談も言い合える仲だ。

「少しはフォローしてくださいよー…まぁいいや。よくぞ聞いてくれました!僕達で先輩の呪いを解く方法を探すんですよ」
「私の呪いを解く方法を探す?」
「はい。僕は呪い全般を、スネイプ先輩は魔法薬の観点から、リーマス先輩は闇の魔術から調べるんです。だって何もせずには居られない。ダンブルドアだって何か見落としてるかも知れない」

その意見を否定する訳にはいかなかった。
だって自分も見落としがあるんじゃないか、って図書室に通い詰めた事があったから。

「いいね。僕は賛成だ」
「名前は嫌だがその意見には僕も賛成だ」
「いやだなぁこのネーミングがいいんじゃないですかー。で、どうします?先輩が頷けば僕らナイトは貴女の為に全力で働かせて頂きますが?」

レギュラスは屈んで私の手を取りこうに軽く忠誠のキスをする。
流石貴族。
身のこなしが美しい。

三人が私を助けようとしてくれるのは嬉しい。
でも……

私はダンブルドアの言っていた事を思い出した。

『わしは諦めんぞ!』

……私も諦めたくない。
死にたくない。


「………お願いしても?」

「勿論!」





そう、私は、
    生きたい。











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今までずっと短かったので今回は大分長めです。
やっとヒロイン一歩前進できましたね。


2008.04.03.THU  朔