キャラは普通に高校に通ってて、XANXASは不良集団ヴァリアーのボスっていうパロディー設定。
ない。何がってあれだよ。雨の日にさす棒に布がついてるあれ。
今朝家を出る時は雨が降ってきそうだから、と確かに持っていた。
そしてこの傘箱に入れた。うん、はっきりと覚えてる。
でも今それが此処にないという事は、だ。
「うわぁ…誰か持ってっちゃったのか……」
あぁ、先日買ったばかりのお気に入りの傘だったのに…。
もう私の手に戻ってくる事はないだろう。
先々週は出掛けた時に電車の中に置き忘れちゃったし、先週はファーストフード店に置き忘れてしまった。
今月4本目の傘を買わねばならぬのかと思うと自然にため息が出た。
傘に嫌われでもしているのだろうか。
いや、最初の二つは自分の責任だけどさ…。
さてこの雨の中どうやって帰ろうか。
家までの距離は遠くもないが近いとも言い難い距離だ。
しょうがない。コンビニによってビニール傘を買おう。
そう思っていざ雨の中に突撃しようとした途端がくんと腕を引っ張られて前につんのめりそうになった。
「何してんだテメェは」
「ざ、ザンザスくん!」
掴んだのは学校一の不良少年の集まり、ヴァリアーのボス、ザンザスくんだった。因みに同じクラスである事も此処に追加しておこう。
「いや、あの傘がないので走って帰ろうかと……」
私がおどおどしながらそう答えると眉間の皺を幾分濃くするザンザスくん。
――え?何か悪い事した!?すっごい睨まれてるんですけど!
相手がどうでるかと身構えながら待っているとザンザスくんの手が上がった。 電車の中に〜とファーストフードに〜の下りは実話です。
――うわ、叩かれる!
咄嗟に両手で頭をカバーして目をつむった。
何もしてないのに、そう思ったがきっと不良とはそういう物なのだろう。
態度が気に入らなかったとかそんなんだ。
あぁ、やっぱり馴れ馴れしくザンザスくんなんて呼ばなきゃよかった。
様呼びがよかったのかも知れない。
馬鹿みたいな事を考えながら固く目をつむっていたがいっこうにあの大きな手が下りてくる事はない。
「……あれ?」
前を見れば傘を射して既にドアを開けているザンザスくん。
どうやら私の後ろにあった傘を取る為に手を上げていただけらしい。
「おい、濡れたくなかったら早く来い」
私がもしやと自分とザンザスくんの傘を交互に指差して首を傾げた所ザンザスくんが頷いたので慌ててザンザスくんの元へ駆け寄った。
どうやら傘のない私を入れてくれるらしい。
「あ、ありがとう!」
「傘ぐらい用意しとけ」
「いやぁ、一応持って来てたんだけど誰かに持ってかれちゃったみたいで。折りたたみは普通の傘の方持ってかれちゃってるとは思わなかったから友達に貸しちゃって…」
「バカか」
あはは、ごもっともです。
反論のしようもないです、はい。
私が小さく困ったように笑うとあのザンザスくんもちょっとだけ笑ってくれた。
「ザンザスくん家どの辺?」
「あ?テメェん家はどの辺なんだよ」
「私は並盛の方だから入れてくれるの途中までで良いよ。そっからは走ってくから!」
傘は入れてくれるし、笑顔はちょっと可愛いし(な、内緒ね!)多分ぶっきらぼうなだけで本当はすっごく良い人なんだと思う。……けどやっぱり怖いです。
もう少しこう、ゆっくりと?なんてゆうか穏やかな喋り方をしてくれると有り難いんだけど。
だって既に私の身体が意思に反して早くも逃げ腰になってるんだもん。
「家まで送ってやる」
「え、でも迷惑じゃ…」
「俺の厚意が受け取れねぇってか?」
「い、いえ!滅相もない!」
怖いよ!
「じゃ、じゃあお願いします…」
「お茶ぐらいしか出せないけど上がってく?」
送って貰ったのだから、と一応言ってみた物の本当に上がると言われたらどうしよう。
怖いし、土足で上がりそうだし、怖いし。
あ、や、感謝の気持ちがない訳じゃないんだよ!?
「別に良い」
「いや、でも送ってもらっちゃったしさ」
うぉーい!
せっかくザンザスが良いって言ってるのになんでそこで食い下がらない自分!
「……じゃあ今度何か奢れ」
「う、うん!」
高い物とか要求されないよね?
だ、大丈夫!ザンザスくんはいい人だってこの数十分の間に分かったじゃない。
そんな事を考えていると早速ザンザスくんが踵を返して元来た道を帰ろうとしていた。
「今日はありがとう!また学校でね!」
ザンザスくんは少しだけ顔をこちらに向け口の端をニッと小さく上げてあぁ、と軽く手を上げて雨の中に戻って行った。
人って見かけによらないんだな。
傘は無くなっちゃったけどザンザスくんが優しい人ってのも分かったし今日はツイてるかも知れない。
私も自然と頬を緩ませた。
不良少年君はいい人でした。
(フッ……)(ゔお゙ぉい!どうしたボスさん!思い出し笑いなんて良い事でもあったかぁ?)(別に何もねぇ。死ね、カス)ガンッ(痛ぇっ!!)