※attention!

 『最後に抱きしめて』の続きです。
前の話でヒロインは亡くなったので勿論出てきません。綱吉さん語りです。







叶わない恋





数日間任務に行っている間にクロームが倒れたと聞いて直ぐにアジト内に用意された病棟に向かった。

ついに持たなくなったか。
元々、幻覚で内臓の機能を維持させるだなんて無茶な話だったのだ。
前々からそう長く持たない事には気付いていたし俺だってドナーとなる人を必死に探していた。彼女はファミリーの一員であり、仲間なのだから。
でも彼女の規格外に小さい臓器に合い、尚且つ死にたての人間が見付かるなんて何万…いや、何億万分の一の確率で、それこそ無茶な話だったんだ。
自分は皆を守るボスなはずなのに仲間一人助けてやれない自分を呪った。
骸は片割れのような存在の彼女がいなくなってしまったらどう思うのだろう。
さんがいるから大丈夫だろうか。
そういえばさんがやって来た辺りから骸はドナー探しを止めたと風の噂に聞いた。
麻薬の密売をしているという情報を掴んだ骸が独断でそのファミリーを潰しに行って、さんを連れて来たのは五年前。
骸は一目惚れをしたのだと語った。
その骸に多少の違和感を感じたが俺はそんな事よりも何の感情も篭っていない瞳でこちらを見るさんの方が気になった。
彼女は紹介された守護者や俺を見渡して一言、凛とした声で名前だけを名乗った。
一目惚れ、というには余りにも曖昧な感覚だったが何処となく彼女に惹かれたのは確かだった。

「シャマル、クロームは?」
「あぁ、今は昏睡状態だ」

カーテン向こうには呼吸器を宛がったまま瞳を閉じる女性、クロームが。

「どのくらい持ちそう?」
「2週間持つか持たないか、だな」

2週間…。
余りにも短いそれに眉を下げてカーテンを閉めた。
天下のボンゴレ十代目ボスが聞いて呆れる。
人の命の前に、自分は余りに無力だという事を知った。

「ドナーは見付かってないよな?」
「あぁ、見付かってたら直ぐに言ってるさ。どうかしたのか?」
「いや、さっきが風邪で此処に来てな。嬢ちゃんの話を聞いて『今にドナーが見付かって彼女は助かるから』って言ってたんだ」

シャマルの言葉を聞いて突如頭に映像が過ぎった。


ベッドに横たわるクロームの顔色は今より幾分よく骸は俯き、震えながらその手をぎゅっと握っている。
何故かその横のベッドには白いシーツを顔と身体にかけられ横たわる人らしきものが。
腹の辺りが陥没しているし正直人なのかどうか定かではない。
唯一布の端から覗く綺麗な白い腕がそれが人である事を知らせていた。
きっとこの人がドナーだったんだ。
もう此処に運ばれて来た時点で脳死状態だったんだろうな。可哀相に。
でもこの違和感はなんだ?
俺はこの人を知ってるんじゃないか?

だってこの手の甲まで届くタトゥーは……。


「おい、ツナ!大丈夫か!?」
さんだ……」
「は?」
「ドナーはさんなんだ…」

正気に戻った俺の目からはぽろぽろと涙が止めどなく溢れていた。

「超直感か……」

シャマルの呟きに小さく頷く。

「俺、骸を止めてくる」

病室から駆け出して行こうとしたら肩を掴まれて引き止められた。

「嬢ちゃんは自分で気付いてるんだ。合意の上なんだろうよ。お前さんの出る幕じゃあないな」
「でもそれじゃあさんが…!」
「……今の現状じゃクロームが助かる方法はそれしかないんだ。を助けるって事はお前はファミリーより部外者を優先するって事になるんだぞ」

それが何を指すのかなんて分かってる。
そんな事をしたらきっと部下達からの信用を失い、クーデターが起こるだろう。

――それでも、俺は……。

「ツナ、俺達に嬢ちゃん達の命を天秤にかける権利なんてないんだよ」

シャマルも辛そうに眉を寄せて、目を細めた。
彼とて辛いのだ。
医者という立場でありながら片方の命を見捨てなければならないのだから。
無力な俺は罪のない壁を力の限り叩きつけるしかなかった。


数日後、彼女は脳死状態でシャマルの下に運び込まれ、腹の中の殆どをクロームに捧げる事になり、超直感はやはり絶対なのだと思い知らされた。
部外者である彼女の墓をボンゴレの敷地内に公に作る事は出来なかったので、日の当たらない場所で悪いとは思ったがあまり人のよりつかない敷地の隅にこっそりと埋めてその辺の枝で十字架を作って立ててあげた。
子供がたてたペットの墓のようなそれはまるで彼女の惨めな人生を表しているようだ。
――まともな墓も作って貰えない、可哀相な君。そしてまともな墓も作ってあげられない、情けない俺。

「ごめんね」

墓の事も、助けてあげられなかった事も。

「貴方でしたか」

半分呆れたようなその聞き覚えのある声に振り返った。

「そのセントポーリアを植えたのは」
「骸……」

やはり彼だった。
骸は墓の前まで進み、持っていた綺麗な菊の花束を置いた。

「小さな恋、ですか」

墓の周りに植えられた花を見て骸は言う。
俺が余りにも墓が寂しいのでせめても、と植えた花だ。
花言葉は骸の言う通り『小さな恋』。

「馬鹿ですね。こんな日の全く当たらない場所に植えたら花なんて咲きませんよ」

セントポーリアは直射日光を嫌うが少しだけでも日の光をあててやらねば咲く事はない。

「知ってるよ。でも咲かなくていいんだ」

相手が亡くなってしまった以上、今更に気付いたこの小さな恋が花開く事はないのだから。

「骸なんでしょ?さんを殺したの」

俺の複雑な感情を込めた言葉に骸が何を思ったのかはわからないが少し間を置いてえぇ、と返した。
やっぱり、とは思っても咎める事は出来ない。
俺達はマフィアだ。
極論を言えば『さんは敵で、骸はファミリーを守った』ってだけなのだから人間性を咎める事はならない。

「骸はさ、さんの事愛してた?」
「馬鹿な質問をしますね。愛してなかったからこんな事をしたんですよ」

愚かしいにも程がある質問だと骸は笑う。

「用も済んだので僕はこれで失礼しますよ」

去り際に冷たい物が手に触れた。

「馬鹿はどっちだよ……」

俺はしゃがみ込んで手の甲についた骸の涙をぼうっと見詰めた。



 



叶わない恋

その涙の意味は、




あ と が き

骸さんの名誉を少しは挽回出来ただろうか…。
最近くらい話ばっかですみません。
根本的に私はギャグの人間です。多分。


2009.01.14(携帯版掲載日) 猫又 朔