「骸には分からないの?」 「わかりませんね」 まぁ、冷たい。 おどけてそう言う彼女の目は確かに本気だった。 事の発端は遡る事十分程前の事。 突然骸の部屋のドアを蹴破るようにしてやって来たのは同僚であり雲の守護者である雲雀の幼なじみであるだった。 あろう事かは押しかけて来るなり「信じらんない!」と叫んで枕を背に上半身だけ起こし、ベットの上で本を読んでいた骸の上に跨がったのだ。 こんな真夜中に彼氏でもない男の部屋にやって来てあまつさえ肢体の上に跨がるとはこちらの方こそ信じられない、というのをわざとあからさまに顔に出すが彼女は物ともせずに話し続けた。 「恭弥ったらね、クリスマスだっていうのに仕事仕事仕事、で全然構ってくれないのよ!」 「まぁ貴女は彼の幼なじみではあっても彼女ではありませんからしょうがないでしょう」 呆れながら受け流して先程まで広げていた推理小説をを再び広げる。 「取り敢えず退いてくれませんか。僕だって男です。襲いますよ」 「いやよ」 ぷいと子供のように顔を逸らすに骸は深くため息をついた。 「私、魅力ないのかしら」 「十分ですよ。だから今すぐ退いてください」 「なら今すぐ襲ってよ」 一瞬本から顔を上げ、じと目で見てからまた本に目を戻した。 何処まで読んだんだったか。 「ちょっと、無視?」 はぁ、と深くため息をついて本に栞を挟んでパタンと閉じ、電気スタンドの置かれた小さなデスクの上にそっと置く。 「あんまり冗談が過ぎると」 骸が起き上がると共にの視界が暗転した。 「痛い目みますよ」 「ワオ」 押し倒されて今にも襲われてもおかしくないというのに楽しそうに笑うを見て骸は眉を潜めながら雲雀恭弥が好きなのではないのか、と尋ねる。 「当たり前じゃない。愛してるわよ」 「じゃあ何故こんな事を?」 「簡単よ。恭弥に後悔して欲しいの」 自分がを大事にしていれば、きちんと守ってやっていれば、と。 「それは愛とは少し掛け離れているのでは?」 「そんな事ないわ。これが私の愛よ。こうすれば彼の心を一番しめるのは私になる。骸には分からないの?」 「わかりませんね」 まぁ、冷たい。 おどけてそう言う彼女の目は確かに本気で少し身震いした。 「僕は愛した人には幸せになって欲しいし、傷付くような事はしたくない」 「私とは真逆ね」 とんだサディストだと笑ったらある意味マゾヒストでしょう?と笑い返された。 「僕が貴女を愛してると言ったら貴女はどうしますか?」 骸の気持ちに気付いていなかったのかあら、そうだったの、と二、三度瞬きをする。 何か良い事でも思い付いたのかクスリと笑って馬乗りになっている骸に浅めのキスをして耳元でこう囁いた。 ――恭弥なんか瞳に入らないくらい夢中にさせてごらんなさいよ。 「なら、そうしましょうか」 互いにニヤリと微笑んで、軋むベットに沈んでいった。 「目茶苦茶にしてちょうだい」 歪んだ"愛"とマゾヒスト 恭弥、愛してるわ。 あぁ、早く貴方の顔が歪むのを見たい。 |