「沖田の奴遅いアルなぁ、定春」
「わふっ」
「おぉ!定春はやっぱり天才ネ!私の言葉が分かってるヨ!!」
「わふっ」
「…やっぱり一人で(定春もいるけど)公園にいてもつまんないアル。沖田早く来ないかなぁ…」
公園にて
最近神楽はよくここで沖田と戯れている。
別に約束をしている訳ではない。
神楽が定春と散歩に来ると調度沖田が見回りをサボって公園のベンチでアイマスクをつけて寝ているのだ。
しかし今日は珍しく沖田が来ない。
「定春、そろそろ帰るアルか?」
神楽がそう尋ねると、定春はまるで分かっているかのように首を横に振った。
いや、"ように"ではない。
この犬は本当に分かっているのだ。
沖田が主人の銀時よりも自分と遊んでくれる、と言うことを。
一方、沖田は…。
「副長!!」
隊士の一人が叫んで土方を呼ぶ。
「なんだ?」
「沖田さんがおかしいんです!!」
「は?」
沖田がおかしいのは昔からだ。
何たって奴はサディスティック星の王子なのだから。
「沖田さんが風邪をひいてるってのに見回りに行くって聞かないんですよ!」
「総悟が見回りに行きたがってる!?」
沖田といえばサボり魔のはずなのに行きたがってるなんて異常だ。
「はい!邪魔するなら切り捨てるとか言ってるんです!とにかく来て下さい!!」
土方は信じられない、といった顔で隊士について行った。
沖田の部屋の前に辿り着くと、そこには今にも隊士達を切り捨てようとする沖田の姿があった。
「おい!総悟!何やってんだテメェは!!」
「あ…土方さん…」
「お前は熱あるんだから大人しく寝てろ!」
「土方さんが死んでくれるなら大人しくしまさァ」
「誰が死ぬかァ!」
沖田の言葉に土方がキレた。
「ちっ…土方さんはキレやすくていけねぇや」
「とにかくお前は寝てろ!」
「嫌でさァ!」
沖田は土方をおもいっきり睨みつけながら即答した。
これは譲れない。
自分が行かなければきっと彼女は何時間も待つことになってしまうだろう。
今日の天気は快晴だ。
彼女は日の光に弱い。
この天気では身体が持たないかもしれない。
睨みつけてくる沖田を見て土方は戦闘態勢にはいった。
力ずくでも布団に入れようとしているのだ。
バタッ
調度その時、沖田が倒れた。
相当な無理をしていたせいだ。なんせ熱が40℃もあるのだから立っているだけでも精一杯だったはずだ。
「あ、酢昆布無くなっちゃったアル」
周りを見回してみるが沖田が来る気配はない。
一先ず酢昆布を買いに行こうと立ち上がって定春のリードを引っ張ってみるが定春は動こうとしない。
彼はきっと沖田が来るまで此処を離れないつもりなのだろう。
神楽は仕方なくまたベンチに座り直したが、なんだか気分が悪くなってきて横になることにした。
日にあたり過ぎたかな、と思いながらそのまま眠りについた。
ヒタッ。
冷たい何かが神楽の頬に当てられた。
「…ん…?」
「オイ、チャイナ。起きろ」
「んぁ?…沖田?」
目の前の黒い隊服を見て神楽は沖田がきたのかと思った。
「ちげぇよ、ボケ。土方だ」
「あ、あぁ…大串君だったアルか。沖田かと思ったヨ」
神楽は起き上がると腕を思いっきりのばして、まだ眠そうに欠伸をした。
「寝ぼけてんじゃねぇぞ。ってかなんでお前こんな所で寝てんだよ」
「沖田が来ないから動けないネ」
「はぁ?」
突然の意味不明な発言に土方は眉をしかめた。
「定春が沖田が来るまで動いてくれないアル!」
何となく沖田が無理に行きたがった理由が分かった。
彼は彼女がほうっておいたら帰れない、と分かっていたのだろう。
「大串君、沖田は何処アルか?」
神楽はキョロキョロと辺りを見渡す。
「沖田は風邪だ。だから俺が代わりに見回りやってやってんだよ」
「お前等仕事なんてしてたアルか。銀ちゃんが真撰組はただの税金泥棒だって言ってたヨ」
「お前あいつの言うこと鵜呑みにしてるとまともな大人になれねぇぞ。…って、お前大丈夫か?顔青いぞ」
「あー…ずっと日の光にあたってたからちょっとバテちゃっただけネ」
そういって顔を反らした。
「ちょっと、ってかなり白いぞ」
「同情するならアイス買ってヨ!私と定春の分!」
約束はしていなくとも沖田のせいで具合が悪くなっている少女に反論出来ず、ちゃっかりハーゲンダッツを買わされた。
「ん〜!美味しいアル!」
神楽の顔色はだいぶ良くなって来た。
「そりゃあ良かったな、チャイナ」
「大串君」
「だから土方な」
土方の発言を無視して神楽は言った。
「"チャイナ"って呼ぶの止めるヨロシ」
「はぁ?」
「私"チャイナ"って名前じゃないネ。"神楽"ヨ」
「お前だって"大串君"って呼んでんじゃねぇか」
「じゃあ"トシ"って呼んでやるヨ。だから"神楽"って呼ぶヨロシ」
「はぁ!?"土方"で良いだろ!?」
土方は顔を軽く赤らめている。
「だって"土方"より"トシ"の方が短くて呼びやすいネ」
神楽は指で文字数を数えている。
「ほら!五文字も少ないヨ!」
「なんで五!?四−二は二だろ!?」
「何言ってるアル。四−二じゃないネ。"うぜぇ土方"−"トシ"だから七−二ヨ!」
「もういーよお前…何とでも呼べ。つーかさっさと帰れよ」
「でも定春動いてくれないアル!」
土方は犬を見つめた。
今なら動きそうだ。
「おぉ!定春が動いたネ!」
神楽は興奮して立ち上がろうとした、が…。
「アレ?立てないアル」
土方は驚いて神楽の方を振り向いた。
「トシ……」
「な、なんだよ」
「おんぶして」
「…は?なんで俺がそんな事……」
「そーかそーかトシは弱った女の子を見捨てるような最低な男だったアルか」
「……」
「ちゃんと歩けヨー。トシー」
神楽が土方の上で暴れるため、土方は危うく転びそうになった。
「うぉ!オイ、暴れんな!!」
「お、着いたアル」
やっとか、とため息をつき。インターホンを押した。
「かぁぐらぁ〜遅かったじゃねぇ…」
ドアを開けて出てきた銀時は神楽の状況を見て目を見開く。
「大串君…?なんでお前が神楽といんだよ」
「なんでって…」
「銀ちゃぁぁぁん!!コイツに変な事されそうになったヨ!!」
「何!?ちょっと大串く〜ん?家の子に何してくれてんの?」
口調は冗談っぽいが目が本気だ。
「いやいやいやいや何もしてないから!!」
「プッ…銀ちゃんってば本気にしてやんのー!トシが何かするわけないネ!バッカアルなぁ!」
神楽は銀時を見て吹き出した。
神楽の笑いの波はなかなかおさまらない。
どいやらつぼにはいったらしい。
銀時は罰が悪そうに大人をからかうんじゃねぇよ、と言ってデコピンをした。
バチッ
「痛いアル!」
「はいはい。ほら、もう良いから取り敢えず中入れ」
「うん!じゃあねートシー!」
「お、おう…」
神楽は万事屋に入って行った。
「…トシ…か…」
煙草を一本取り出し、火を付けた。
「悪くないかもな…」
何だコレ。土方さんが妙に変態な気がする・・・。
っていうかコレ何神?
土神なのか?