取り敢えずの勝利宣言




「これ、終わるの?」
「書いてればいつかは終わるよ。」

それはそうなんだけど…
目の前で余裕釈々といった様子で微笑むリーマスを見ていたら、自然にため息が
出た。
―――リーマスはDADAが得意だからいいんだろうけど。
あたしは頬杖をついてレポートにわざと肘を立てた。肘の下にあるのはDADAのレ
ポート。課題は『吸魂鬼の生態と対処法について』。
そんなの専門家に任せればいいじゃない!というのがあたしの持論なんだけど、
教師がそんな反論に耳を貸すはずもない。
今日何度か分からないため息を吐いたら、リーマスがくすくす笑った。

「ほら、ため息ばっかりついていても進まないよ。分からない所は手伝うから、
頑張ろう?」
「…っ、リーマスありがと〜!」

あなたは神様です!あの意地悪野郎とは大違いだ。は嬉しそうに笑うと、また
教科書と睨めっこを始めた。
彼女は、リーマスが自分のことを温かい瞳で見つめていたことに気付かなかった

遠くで小さく舌打ちした少年が居たことも。

あ、ここはさっき教えてもらった所だ。
いざ文字を書こうと羽ペンを洋皮紙に向けたそのとき、ふいに洋皮紙が取り上げ
られた。

「おいおい、まだ終わってねぇのかよ。」

ばっと後ろを振り返った。シリウスがにやにや笑いながらあたしのレポートを読
んでいた。
普通人のレポート無許可で読む!?
怒りで顔を真っ赤にしてシリウスを睨んだ。

「シリウス!返してよ!」
「うっせーな…お前、ここのスペル違うぞ?」
「嘘っ!?」

勢いよくレポートを取り返すと、確かに「L」から始まる単語のはずが「R」から
始まっていた。
がっくりと肩を落とすあたしの隣で、リーマスがにっこり笑った。

「大丈夫。ちょっとのミス位なら呪文で何とかなるよ。」
「本当!リーマス凄い!」
「その程度の魔法なら楽勝だろ。まさかお前、使えないのか?」

シリウスははん、と鼻を鳴らすと馬鹿にした様子で朔を見下ろした。

出来ないのは事実だけど…むかつく!

「馬鹿にするだけならどっか行って!私は今リーマスに勉強教わってるんだから
!」
「っ、お前に指図される覚えはない!」

お互いに睨み合い、一歩も譲らない。ふう、と息を吐く音がして2人ははっと顔を
上げた。リーマスが苦笑を浮かべていた。

「シリウス、女の子相手に口が悪いよ。朔も、怒ってばかりじゃ宿題が進まなく
なる。」

1番的を射た言葉に、あたしもシリウスは閉口した。

「分かってもらえたようで嬉しいよ。だからね…」

それを見てリーマスはにっこりと―――口元を吊り上げた。

「シリウス、君はジェームズ達の所に行ってなよ。僕らは宿題しなくちゃいけな
いんだから。」
「はっ!?俺は…」
「ここにいたらまた喧嘩になっちゃうよ?」
「…っ」

シリウスは言葉を切ると、口の中で小さな唸り声を上げた。
何故かあたしとリーマスの顔を見比べながら、躊躇うように唇を真一文字に引っ
張っている。

何がしたいんだ??

暫くして、彼はちっと舌打ちして男子寮の階段を駆け登って行った。
後ろ姿を見つめながら、リーマスがぽつりと呟いた。

「…あれで自覚無いんだもんなぁ」
「どうしたの?リーマス。」

首を傾げてリーマスを見上げたら、彼は何時もと変わらない笑顔でこう言った。

「ううん、何でもないよ。ただ…
今は僕の勝ちかな、って思っただけ。」

 
取り敢えずの勝利宣言
え?何に勝ったの? 後々分かるよ、多分。