紫苑さんから頂いた+10雲雀さんシリーズ。
シリーズで丸ごと頂くなんて厚かましいにも程があるって?
だって好きなんだものっ!←


片割れ星ヒバードのいたずら休暇贈り物敵わない思わぬ敵!?まどろみ食べたいもの幸せのありかありがとうお祝い?


片割れ星 


「軍(いくさ)星、四三(しそう)の星、七曜(しちよう)星、七座(ななます)星。」

夜、ベランダから星を眺めていたが口にしていた言葉。


「……北斗七星?」

最初の方は分からなかったが、七がつくようになって分かった言葉。

「うん。全部北斗七星のことだよ。」

振り向きはにかんで笑う

隣に並んで空を見てもその北斗七星は見えない。


むっとしているとがクスクス笑うのが分かって更にいらいらしてくるのを深い息をすることで散らす。

は愛しい女性だから。
愛しいが故に……ということもあるが、咬み殺したいとは思わない。

……替わりに甘咬みはするかもしれないけどね。


「音が好きなの。同じ物を表してるのに、こんなに素敵な名前があるんだよ。」

「まぁ、それは認めるよ。」

知ったかぶりしてカタカナ言葉を使う人間より、古きよき言葉を使う人間の方が好ましい。


意味を間違えて使い、それにさえ気付いていないし。


「空も雨も雷も霧もたくさん素敵な言葉があるよね。」

「…………そうだね。」

わざと雲を外して言ったら目に見えて急下降する雲雀の機嫌には可愛いなぁと思いながら抱き着いた。

「雲も、だよ。」
抱きしめ返される腕の強さと温もりには目を閉じた。

「空を見上げれば、雲はあるから。」

恭弥が任務に出ていない時でも、外を見れば雲が見えた。


雲は、にとっては雲雀と同じ。

雲を見つければ、それは雲雀を表してたから。


そうしたらがっくりと首筋に顔を埋める雲雀には身体を震わせた。

素肌に息がかかるのはの心臓を跳びはねさせる。


「僕はそれだけじゃ満足できないよ。」

触れ合って、言葉を交わして。


「だから今一緒にいるでしょう?」

クスクス笑うの左手の薬指には指輪が輝いている。

もちろん、雲雀の同じ指にも。

よく見ないとそうとは分からないようなペアリング。

「………恭弥?」

ぴくりとも動かない雲雀には顔を見ようと身をよじった。

は一目惚れして、一生懸命口説き落とした最愛の女性。

その時から鈍かったけど。

(まかり間違って草食動物たちの前で空、雨、雷、霧とかの言葉を言ったらと思うと気が気じゃない。特に霧!)


やっぱり既成事実は必要かな。

考えて思い直す。

子どもがいてもいなくてもの人気は衰えないだろう。

 


確か………

「八雲を作らなきゃね。」

昔の歌にあった。


「君を隠す雲を。」


閉じ込めたい訳じゃない。

愛しいを護る為の八雲を。


幾重にも重なる雲の護りを。


「恭弥は雲で私の一つ星なの。」

導き道を示してくれる。


「だったらは僕の片割れ星だよ。」

二つで一つなんだから、離れたら駄目だからね。


「うん。」

嬉しい。

「護るから、離れていかないで。」


「当たり前だよ。絶対離れないから。

恭弥。
私も護るからね。」


力無く、幼子のように願う恭弥の心を護れるように。


「ありがとう。
でも護らなくてもいいから支えてよ。
がここに居てくれるだけでいいから。」

帰る所があるのだと、が教えてくれるから。


「嫌。私も護るの。」

には敵わないよ。」


負けず劣らず頑固なは絶対にうんとは言わないだろう。
そして、僕は受け入れてしまう。

君の愛しい我が儘を。

 

決して理不尽な事は言わない。
決して自分の事では甘えないが僕の事では意見を変えない。


でもそれは僕の為。

こんなに小さいのに僕を護ろうとする背中はすごく大きい。


「無理はしないこと。無謀は駄目だよ。
それからが傷つかないうちに引くこと。」

約束できる?


「……うーん……
じゃあ恭弥も同じ事約束してくれたら、する。」

「僕は別だよ。」
堂々と君を護る役目をもらえたんだから。


「なんか、ずるい。」

「僕を護りたいなら、約束してね。」

「………やっぱりずるい。」
そう言われたら約束しない訳にはいかない。


はきゅっと雲雀を抱きしめて、擦り寄った。


「約束する。」

「うん。」
ありがとう。

僕を護るって言ってくれて。

だけだからね。


やっぱり甘咬みしようかな。

思っての髪に指を絡ませた。


 

ヒバードのいたずら 


いつものように朝、雲雀を送り出しが洗濯物を干していると

ヒバードが飛んできた。

「あれ?恭弥と出掛けたのに、どうしたの?」

肩に止まるヒバードの頭を撫でる。


「ワスレモノ、ショルイ、トドケテ。」

擽ったさそうに首をすくめるヒバードが口を開いた。

「え、恭弥のメッセージ?ヒバードが届けてくれたの?」

珍しい。
恭弥はどんなにささいな事でも何かあると(なくても)声が聞きたいからと電話くれるのに。

「嬉しい。ありがとう。」

お礼にヒバードにご褒美をあげる。それから雲雀の机にあった書類を多分これだなとバッグに入れると再び肩に止まったヒバードと一緒にボンゴレ本部へ向かった。

 

 

「僕は伝言なんてしてないよ。」

雲雀の執務室に行って渡したらこう言われた。

「えっ?」

「僕は何も頼んでないし、忘れ物なんてしてない。」

これはただの報告書。


が目をぱっちり開いてヒバードを見ると、すごい勢いでそらされた。

「もしかしなくてもヒバードに騙された。」

あんなに褒めてご褒美まであげたのに。


が恨めしげに見ていると、突然雲雀にひょいっと抱き上げられてそのまま椅子に座る。
もちろんは雲雀の膝の上だ。


「……恭弥?」
「何?」


「部下の人が入って来たらびっくりしちゃうよ?」
「そうかもね。」


「恥ずかしいよ?」
「……じゃあ、降りる?」


「………やだ。」
「なら問題ないね。」

 

ふわり

ヒバードが雲雀の肩に止まってを見る。

まるで褒めてほしそうな目で。


はくすりと微笑んでヒバードを撫でた。

「ありがとう。」

言うと抱かれている雲雀の腕に力が入って、見ると不機嫌そうな顔の雲雀がいた。

「だって、ヒバードが会わせてくれたんだよ。」

でなければ、今日ここには来なかった。

「ヒバードに感謝しなきゃ。」


「今は僕のことだけ考えてればいいよ。」

 

肩に止まったヒバードはいつの間にかどこかに行っていて、はクスクス笑いながら雲雀の頬にキスを贈ったのだった。



休暇

「ずるい。」

出張の後、家で待ち受けていたのは不機嫌な様子の愛しい奥さん。

やっと帰って来て、寂しい思いをさせてしまったから二人きりの甘い時間を過ごそうと思ってたのに。


「なに拗ねてるの?」
「………」

「ちゃんと出張だって言っておいたはずだよ。」
「…………」

「黙ってたら分からないよ。」
「……………」

返事がないのに、雲雀はため息をついた。

これは長期戦になるかもしれない。
お茶でも頼もうとくるりとドアに向かった時、トンっと背中に衝撃が走った。

「……行っちゃやだ。」

ぎゅっと背中にしがみついているのがわかる。

何を勘違いしてるんだか。

「じゃあ話してくれる?」
好都合だと聞いてみる。
いつまでもこんな状態は嫌だった。


「……………だって、一人で行ったから。」

「どういうこと?」

「……日本に出張だったんでしょ?」


言われてやっと話が見えた。

「それで拗ねてたんだね。」

全く、とにやけそうになるのを無理矢理おさえを背中から引きはがした。


ひょいっと姫抱きしてベッドの上に降ろすとそのまま押さえ込む。

「きょー、や………怒ってる?」


涙目になって、見つめるにクラクラしながらそっとキスをした。


額に

頬に

鼻先に


そして唇に。

 

「一週間。」
「えっ?」

「休みとったから、一緒に並盛に行こう。」

休みをとったというより一週間休み取るからと一方的に言ってきただけなのだが、何にも言ってこないから大丈夫だろう。


「新婚旅行、行ってなかったから。」
「……ホントに?」

「だから忙しかったんだよ。」


中止になるのは嫌だから、それなりに頑張った。


「だから今は甘えさせて。」
不足なんだ。


反論は聞かない、とそのまま唇を塞いだのだった。




 

贈り物


日本に新婚旅行できたは雲雀に案内されて並盛のアジトに来ていた。

ボンゴレのかと思いきや雲雀が作った組織のものだという。

……いいんだろうか。

聞いた時、素直にそう思った。


雲雀はまがりなりにもボンゴレの幹部で、それなのに組織って………と。

恐る恐るボスである綱吉さんに尋ねると、苦笑と共に驚くべき答えが返って来た。


「雲雀さんは並盛が大好きだからね。
それにあそこには俺の母さんを始め皆の大事な人がいる。
故郷なんだ。
どんな時でも、決して褪せない大事な思い出がつまってる。
だから感謝してるんだよ。」

雲雀さんは認めないだろうけどね。

 

簡単に想像ができて、は微笑んだ。

 


私が愛した人は

こんなにも優しい。

「失礼します。」


ちょっと待っててと言って部屋を出た雲雀を待っている間、は和風な建物の部屋の中を見て回っていた……といっても余計なものはなかったが部屋が広かった。


「草壁さん。」
「恭さんに頼まれた物を持ってきました。」

そう言って草壁さんが取り出したのはたくさんの着物。


「これは?」

反物ではなく、全て仕立ててある。


「恭さんがさんに用意したものです。」

「ええっ!!これ全部ですかっ。」

驚いて尋ねると、当然だというように頷かれる。

十や二十ではない、色とりどりの着物にはぱちぱちと目を瞬かせた。

「こんなに……。」
目の前にあったのを手に取る。
濃い紅い地にたくさんの華が咲いている。
他にもうぐいす色の地に巴太鼓柄や淡い地色の色留め袖など様々だ。


「私に似合うかな。」
呟くといきなり後ろから不機嫌な声がかかった。

「似合うに決まっているじゃないか。」
僕が見立てたんだから。


「恭弥っ。」
振り返ると雲雀が紺の着物に着替えて立っている。


「……かっこいい。」
「くすっ、惚れ直したかい?」

見惚れていると雲雀はの隣に座った。

「着てみたいのはあったかい?」
なんなら全部でもいいんだよ。

「……ありがとう、恭弥。」

お礼を言ったら、綺麗な表情で微笑まれ、着てみてよと催促された。


「それが……どれも素敵で。恭弥が決めてくれる?」
「だったらこれ。」

あまりにも早く決まったのに、実はこれを着てほしかったのかなと心の中で笑った。
雲雀が決めた着物は最初に見ていた紅地の着物だった。

自分の好みを把握した上で勧めてくれた恭弥には嬉しくて抱き着いた。


「でも恭弥、私一人では着れないよ。」
言ったらすごい笑顔をされた。

(ちょっと怖い……かも?)


「もちろん僕が着付けするに決まってるだろ。
を他の誰にも触らせる訳がない。」


頬に触れてくる指に身体をすくませ、片付けられていく着物を見ながら、は絶対に一人で着付けを出来るようになろうと決めたのだった。

 

(……やっぱり似合うよ。)
(……ありがとう(どっと疲れたのは気のせいじゃないよね。))


 

敵わない

「困ったなぁ。」
盛大なため息と共に呟き頭を抱えるのは近頃ボンゴレ10代目を正式に襲名した沢田綱吉。

初代の再来とも言われ、うっかり守護者と共にボンゴレを強固なものにしてしまった綱吉は書類とにらめっこをしてはため息を増産していた。

「これ・・・係わったのって雲雀さんだよね。」
雲雀でないと解らない内容。
詳しく聞きたくとも肝心の雲雀が捕まらない。

孤高の浮き雲の名に相応しく、どこにいるのやら。

「鈴が欲しい。」
何処にいるのか一発で分かる猫につける鈴。
あれだけやることなすこと派手なのに、なんで足取りが掴めないのか。
他の守護者やリボーンの情報網にも捕まらないなんて・・・

頼もしい事この上ないのに、思いっきりやっかいだ。

 

どうしよう。


コンコン
「綱吉さん、失礼しますね。」


悩む綱吉の下に、天使が舞い降りた。


「綱吉さん、失礼しますね。」

そう言って入ってきたのは雲雀のただ1人の妻であり、隣に立つことを許された人。

さん!!!」

綱吉は思わず泣きたくなった。

「どうしたんです?」
は今にも泣き出しそうな綱吉に駆け寄る。
するとがしっと腕を捕まれて

「雲雀さんに連絡とれますか?」

の一言で全て解ってしまった。


「またご迷惑をかけたんですね。」

仮にもボスに迷惑をかけるなんて。
群れるのを嫌う雲雀らしいと言えばそれまでなのだが。

「どうしても雲雀さんの持っている情報が必要なんです。」

「すぐに呼びますね。」

今日はデートする約束だったのだ。
珍しく恭弥が「どこかに行こうか」と言ってくれたので、その前に本部に顔を出しにきたのだが。
(正解だったわ。)

数回の呼び出し音の後に『どうかした?』との恭弥の声。

「デートの前に迎えに来てくれる?」
今本部にいるの。

素直にボスに逢いに来てと言っても来ないだろう雲雀には搦め手を使った。

『なんでそこにいるの?』
「早く恭弥とお出かけしたかったから。」
『・・・・・・すぐに行くから大人しく待ってるんだよ。』
「うん。ボスの部屋にいるね。」
『解った。』

これでよしと顔を上げると若干顔色を変えている綱吉の顔が飛び込んできた。


「綱吉さん?どうかしました?」

「え・・・と、さん今の電話の内容って・・・・・・。」
確かめたくないけど確かめないと部屋がなくなる。

守護者に壊され何回改装したか分からない部屋だが、これ以上は避けたい。


どうしたか分からないという風のに、綱吉は質問を変えた。

「デートって?」
「久々に恭弥が誘ってくれたので、これから二人でお出かけする予定だったんです。」

「雲雀さんは何て?」
「すぐに来るって言ってました。」

その何の疑いもないの言葉に、綱吉は「ははははは・・・」と乾いた笑みを浮かべたのだった。


(俺、生きてるかな。)

きっと雲雀さんは俺とさんが二人っきりだったと知れば何かしらしてくる。

確実に。


さんが絡むと雲雀さんは独占欲を全面に押し出して、さんの見えない所で咬み殺しにやってくる。


これはさんに同席してもらおう。

咬み殺される時を延ばすだけの行為だとしても、綱吉は引きとめ作戦を決行したのだった。

 

 

それから、部屋の代わりにぼろぼろになった綱吉からに正式にボンゴレの幹部になって欲しいと要請がきたのは仕方のないことかもしれない。

でもがいるならと本部に顔を出すようになった雲雀に、最終的にはよかったと胸を撫で下ろしたのは、内緒だ。

だがその影には
「だって、恭弥と一緒に帰れるでしょう?」
少しでも一緒に、そして二人で手を繋いで二人の家に帰るのが夢だったのだとはにかみながら雲雀に告げたの言葉があったのは、傍で聞いていたヒバードのみが知ることである。


思わぬ敵!? 


「・・・・・・どうしたの?」

それ。


雲雀が任務から帰ってきて、真っ先に向かったの部屋。
充電しようと思ったのに、の僕の定位置には先客がいた。


「拾ったの。木から降りれなくなってて…。」
「哲、捨ててきて。」
「駄目だよ、恭弥。こんなにちっちゃいんだよ。」

の膝にはまだ生まれて間もないだろう黒猫がいた。

その猫は警戒心を剥き出しにして、威嚇している。

「いい度胸してるね。」
じろりと睨みつけると、に睨まれた。

やっぱり気に食わない。

の膝は僕のなのに。


「飼ってもいい?」
は猫を顔の前に抱き上げてお願いする。
もし駄目だと言われたら諦めるつもりで。

それは寂しいことだったけど、恭弥の嫌いな事を進んでする気はない。
その時はちゃんとした里親を捜す用意はあった。

雲雀はの寂しそうな顔を見て、駄目とは言えなくなった。

きっと僕が駄目だと言えばは飼うのを諦めるだろう。
そして、数日は笑わなくなる。

そんなことは認められない。


雲雀はため息を吐いた。
そうして指を二本立てる。
「約束して。
ヒバードと喧嘩をしないこと。
そして、僕たちの寝室には立ち入り禁止だよ。」
守ってくれるなら、置いてもいいよ。

「ありがとう、恭弥。大好き。」
「僕は愛してるよ。」

真っ赤になったに、悪戯が成功したようにキスをしようとしたのに。

バリバリ

「・・・・・・」
「きゃあっっ、恭弥、大丈夫?」
子猫の爪で引っかかれた傷など赤くなるだけだ。
実際見えるか見えないかの赤い三本線が手の甲に残っている。
小さい爪でしっかり引っかいてきた猫を雲雀は恨めしげに睨んだ。
明らかに自分を敵視している。
によほど懐いているようで、取られるとでも思ったのだろう。


の手の中で今もなお向かってこようと手を動かして暴れている猫に、雲雀はきっとこの先もこんなことがあるのだろうなと思うのだった。

 

(やっぱり躾は大事だよね。)
(いじめちゃ駄目だよ。)
(…躾だよ。後で苦労するのはこの猫だからね。)

(…そう、だね。二人でいろいろ教えていこうね。)
(…・・・ほんとには敵わないよ。)

まどろみ 



「なんでこうなってるのかな。」


帰っての出迎えがないのはたまにある。
それはが買い物に出掛けていたりした時。
でも今日は靴もある。
出かけるとも聞いていない。

雲雀はを捜してまわって、見つけたのは薄いカーテン越しに日があたるソファーの上で。
横向きに丸まって寝ているの側で見つけたのは、ヒバードと瞳と毛色が相俟ってまるで夜に浮かぶホタルみたいだからとに螢と名づけられた黒猫。
螢はに腕枕されて、ヒバードはの額にくっついて寝ている。

和む光景ではあるが。

………ムカつく。


僕が入り込む余地がない。

特に螢!!
一体どこに顔を埋めて、あまつさえ触ってるんだい。


それにこのままでは風邪をひく。

雲雀はちょっと考えて、螢とヒバードをのお腹の上にそっと乗せてを抱き上げた。
さすがに螢は目を覚ましたがにしっかりしがみついて離れなかった。

「少しは譲りなよ。」
僕だって譲歩するんだから。


をベッドに移すと螢とヒバードはごそごそと自分の好きな場所を見つけて再び眠りに落ちた。

気持ち良さそうに眠っていると小動物達を見ているとこっちまで眠くなってきて。

雲雀は「くぁ〜〜」と欠伸をするとを背中から抱き込むように寄り添って目を閉じた。

 


(今日だけは特別だからね。)

食べたいもの 


「パイナップルが食べたい。」

ある日お土産何がいいと尋ねたら、はポツリとそう呟いた。


いつもなら他のものはないの?と聞いていただろう。
でもここ数日の食欲が激減しており、僕の前では少しは口にしているようだが、他はヨーグルトや100%のジュースで済ませているのを知っているから。
仕事も体調不良で綱吉から強制的に休みを取らされているほどだ。

「分かったよ。その代わり大人しく寝てるんだよ。」
言っての額に口付けると後ろ髪を引かれつつ玄関のドアを閉めた。


(でもパイナップルが食べたいなんて。)
あの南国果実の呪いじゃないだろうね。

雲雀が思ってしまうのは無理ないかもしれない。
髪型から性格から、昔から気に食わない。
結婚したというのにに声をかけてくるのにも腹が立つ。


雲雀はくるりと行き先を変えると骸がいるだろう部屋をめざした。

「と言うわけだから大人しくヤられなよ。」

「…とうとう鳥頭になりましたか、雲雀恭弥。」

骸はいきなりドカッバキッとドアをぶち壊して襲い掛かってきた雲雀に、クフフと笑いながらも自分の武器で応戦する。
ウマが合わないのは最初からだが、いきなりの展開に骸は内心頭を捻る。

になにかあったんですか?」
「そう言って来るということは心当たりがあるんだね。」
やっぱり呪いだったかと雲雀はその元凶を取り除くことに専念した。

「いや、待ってください。いくら僕でも濡れ衣でこんな戦いをするのは本意じゃありませんよ。
それに君が取り乱すのはになにかあった時でしょう。」
防戦一方になりつつも骸は話を続ける。
「………に何があったんですか?」

その頃になると物音を聞きつけて本部に残っていた綱吉を始めとして守護者が集まってきた。

「雲雀さん、骸も、何があったんです?」
返答次第では…とグローブに炎を宿す綱吉に雲雀は息を吐いてトンファーを収める。
骸も武器を消すと説明なら雲雀にと示した。

「雲雀さん?」
話してくださいという綱吉に、雲雀は朝の出来事を話した。



…・・・・

 

「骸は何もしてないんだよね。」
「…………綱吉くんが僕をどんな目で見ているのかよーく分かりました。」
綱吉を始め皆の視線が骸を串刺しにする。

確かめられて、いじける骸を放置して綱吉は雲雀に目をやった。

「…一度さんをシャマルに診せた方がいいかもしれませんよ。」
シャマルには知らせておきますから、今日の所はパイナップルを持って帰ってください。


「分かった。」
雲雀は素直に頷くと、壊したドアから出て行った。

 


「10代目、もしかして…」
「うん、多分ね。」


雲雀が居なくなってから、確認してくるように戸惑いながらも口にする獄寺に、綱吉は苦笑した。


「とんだとばっちりですね。」
「まぁ、めでたいことだよ。」
壊された部屋を見て嘆く骸に、修理は雲雀さんの給料から差っ引くからと慰める。


「雲雀の子どもかぁ。」
さんに似てほしいですね。」
山本がニカっと笑い、ランボが切実に願う。

この中で気づいていないのは雲雀だけだろう。
綱吉の超直感でなくとも外れないだろう新しい命の予感。

判明すれば雲雀はきっと今以上に愛妻家になに違いない。

それに小さいものには意外と優しい雲雀だ。
子煩悩になる姿も容易に浮かぶ。


「各自お祝いを考えといてね。」
に判定してもらうぞ。」
最下位のヤツは罰ゲームだといつのまにか現れたリボーンがボンゴレ式お祝いだぞと勝手に趣旨を変えてしまう。

皆が皆、新しい命の誕生を祝おうとしているのに、綱吉は嬉しさに目を細めたのだった。

 


そうして雲雀と共にが報告にくるのは、

遠くない未来のこと。

幸せのありか 

「そういえば、さんの予定日ってそろそろだったよね。」
「そうだぞ。」


ボンゴレ幹部唯一の既婚者であり、もうすぐ第一子が生まれる予定の雲雀は、奥さん効果かよく本部に顔を出すようになっていた。
これもさんが言い含めているらしく、綱吉にしてみれば頭が下がる思いだ。
以前なら数カ月に一度本部で見かければ良い方だったし、連絡が取れないのは当たり前………。

雲雀に関する事を思い浮かべ、すっぱい顔になってしまったまな弟子を横目にリボーンはニヤリッと笑う。
それを視界に入れてしまった綱吉は、聞きたくないけど……聞かなかったら後悔すると思い切って口を開いた。

「リボーン、―――」
「ふっ、悪いことじゃないぞ。」

そう言って騒ぎが起こらなかった事なんてないじゃないかっっ!!


読心術ができるリボーンには綱吉の心の声はだだ漏れだったがそれには答えず、クツクツとただ笑うのみだ。


「………」
このままじゃ気になって仕事にならない。

「散歩に行ってくる。」
そうリボーンに言い残して部屋を出た。

「いい天気だな。」
廊下の窓から外に目をやると、青空の下、庭が一望できて綱吉は足を止め見入っていた。

「あ、ボス。こんにちは。いいお天気ですね。」
「うん。」
近づいてくる足音に綱吉は意識を向け、挨拶を返す。

(・・・・・・ん?)
その声に聞き覚えがあって、慌ててグリンと振り返った。

さんっっ!!」
「はい?どうしました?」

慌てている綱吉とは対照的に持ち前のおっとりさを全面に出している
そのお腹は産み月らしく大きい。

「なんでここにいるの?」
産休に入ってからは雲雀さんの言い付けもあり、胎教によい職場とも言えないからと近寄らないようにしていたのに。


「リボーンさんに呼ばれて一週間ぐらい前から本部に顔を出してるんです。」

の口からでてきたリボーンの名前に、綱吉はひくひくと頬を引きつらせた。

「たいてい談話室にいるんです。」

今もそこに行く途中だったというにくっついて綱吉は話を聞いた。


曰く
リボーンに言われて本部に顔を出すようになり、朝雲雀と一緒に来て談話室で過ごし、また帰りは雲雀と一緒に帰るらしい。

理由は家に一人で居るよりは気心の知れた本部に居た方が心配がなくなると言われ、本部には不本意ながらシャマルが居るから何があっても対処できると説得されたとのこと。

「それに談話室にいると誰かしら遊びに来てくれるから寂しくないんです。」
赤ちゃん用の靴や産着を縫っているとあっという間に時間が過ぎるとは微笑む。

話しているうちに談話室に着き、綱吉がドアを開けてを先に中に入れた。
リボーンの教育の賜物か、女性への気遣いが自然に出来るようになった自分に内心苦笑する。

すっかりの定位置になったソファに座りノンカフェインのハーブティを飲みながらは「あっ」と呟いた。

さん?」
「今蹴ったんです。」

お腹を優しく撫でるに、綱吉は見ているだけで幸せになる気がした。
すっかりお母さんの顔になっているにお願いする。

さん、さわってもいい?」
「もちろんです。」
// --> は破顔して綱吉の手を自分のお腹に導いた。

「とってもお世話になっている綱吉さんですよ。
ご挨拶してください。」
「・・・・・・あっ・・動いた。」

伝わる振動に、ここにいるんだと感動が胸に溢れる。

「・・・すごい。」
言葉が見つからない。

食い入るようにお腹を見ている綱吉に、は微笑んだ。
「痛いぐらいに蹴ってくる時もあるんですよ。」
どっちに似ているのかしら。


「どちらでも、きっと可愛いですよ。」
どちらに似ていても、雲雀との子どもに違いはないし、引いてはボンゴレの、自分の新しい家族だ。


「そう言ってくれたのは綱吉さんだけです。」
皆私に似て欲しいって。

そういってちょっと困ったように笑うに、綱吉は首を傾げた。
さんはどっちがいいの?」
「元気に生まれてくれるなら、どっちでも。」

性別は生まれて来る時の楽しみに、聞かないことにしていた。

「恭弥も、どっちでもいいって。」
この子が自分達の子どもであることに変わりはないから。

ただ「似の女の子だったらお嫁にはやらない。」て言っているのが心配ではあるのだけど。

「皆さんに祝福されて、幸せです。」
談話室にきてくれる皆は必ずお腹に触って喜んでくれる。
話しかけてくれる。


慌てて出てこなくてもいいが、早く会いたい、と言ってくれる。


「皆、君に会えるのを楽しみにしているよ。」
話しかけて、綱吉はこんな幸せもあるんだということを実感していた。

 

 


(リボーン、さんを本部に呼んだ訳はなんなんだよ?)
(そりゃあもちろん、なかなかガキを作らねえお前達にはっぱかける為だぞ。の幸せオーラに当てられて子作りする気になっただろ。)

(・・・・・・・・・当ってるかも。)

ありがとう 

その日、ボンゴレ本部は異様な空気に包まれていた。

コツコツコツカリカリカリ
「………」

カツカツカツシュリシュリシュリ
「……………」

クツクツクツザクザクザ……
「……おい、いい加減にしやがれ。」

さっきから変な音を立てている綱吉にリボーンはプチッと切れかけながらエスプレッソを飲む。

「大体お前が焦ってどうする。」
父親でもあるまいし。

「だって、さんがっっ」
「だから、お前はドンと構えてやがれ。」
そっちは雲雀に任せて手を動かせと銃口をゴリゴリ押し付ける。


ドカッ…バキッ

「「………」」

聞こえてきた破壊音にリボーン綱吉師弟は顔を見合わせた。


「あー……」
「ほっとけ。どうせアホ牛が雲雀の地雷を踏んだんだろ。」

気を紛らわすのには丁度いいぞ。

 

邸中がドタドタと騒がしい。

理由は数時間前にさかのぼる。

 

とうとうが産気づいたのだ。



は命懸けで自分の役目果たしてんのに、お前らはやらない気か?」

「………分かったよ。」


その通りだ。
自分がここでオロオロした所で力になれる訳でもない。


「さっさと終わらせて見に行けばいいだろ。」
「…うんっ。」

綱吉はいつになく手を動かすことに専念する。
リボーンもまたそんな綱吉を見て目を閉じた。

幹部もそれぞれの仕事をこなしている。
そうして駆けつけてくるだろう。


雲雀との子に会いに。

 


そうして新月の夜。

新しい命の産声が邸に響き渡った。



「よく頑張ったな。」

ほれ、男の子だとシャマルが抱かせてくれた産まれたばかりの赤ちゃん。
疲れ果てて動けないの側にまだ産湯も与えていない赤ん坊を抱かせる。

「…っ、はい、はじめまして。」
会いたかった。
ずっと。

もっと言いたいことはあるのに、言葉が出てこない。

「旦那入れるぞ。」
その間に産湯だなと連れて行ってる間に雲雀が入ってくる。

。」
「きょー、や。」
汗でべとべとの額にキスをくれる恭弥には涙を零した。

「ありがとう。お疲れ様。」
「……うん。きょーやのお陰だよ。」
一人じゃ頑張れなかったと思うから。

不安はあったけどそんな時はいつも側にいてくれた。
なんで解るのかというぐらいに欲しい言葉や温もりを与えてくれていたから、不安を消してくれたし、一緒に悩んでくれた。


一緒に親になっていった。

勿論スタートラインに立ったばかりだし、これからの全てが初めてのことだ。

でも一人じゃないから。


「ほれ、雲の坊主。男の子だぞ。」
産着に包まれた赤ちゃんをシャマルが雲雀に抱かせる。

「男の子…か。可愛いね。」
「恭弥に似てる。」

「ありがとう、恭弥。」
「僕もだよ。」

 

ありがとう。

 

これからも、私たちが
あなたを護っていくよ。

 

あなたが巣立つ

その時まで。

 

そして、それからも。

 


大事な、大事な

いつまでも


私たちの大切な

家族だから。

お祝い? 


ボンゴレ本部の一室で。

生まれたばかりの修弥を腕に抱きながら、は山積みになったお祝いを前にしていた。

ほとんどが職場の同僚からになる。


それを一つ一つ確認しながら包装を解いていく。


「綱吉さんから………可愛い。」
中身は服。
ちゃんと男の子の服だった。

超直感かな…会ったときにお礼を言わなきゃと…と思いながら、次……と手をのばす。


「………花火…じゃなくてダイナマイト?」
名前を確認しなくても解る。
「獄寺さん……」
いくらなんでも赤ん坊にこれは無理です。

そっと包みを戻して封印する。


「さて、次は………」
気を取り直しては別の包みに手を伸ばした。


「……………ボクシングのグローブ。確かに暖かいかもしれないけど……了平さんだよね。」

 

はお祝いの山を見る。

そうして守護者を思い浮かべた。


「うん、まさかね。」

そんなことある訳ないとなかば自己暗示をかけながら次のプレゼントに手を伸ばした。


案の定

山本からは野球のグローブとボールのセット。
これは数年後だねと微笑み、飴が出てきた時は、あぁ、ランボさんだなとほほえましく思った。


次に並んでいたお祝いを見るまでは。

 

「……………パイナップルの縫いぐるみ。」
手触りなんかとっても気持ちいい。

でもなぜに
「パイナップルなんだろう。」

特注だろうと解るからこそ少し残念に思う。

 

 


「それ、何?」

「きょー、や……。」
いつの間に。

帰って来ていたのか。
そして手の中にあったパイナップルの縫いぐるみが無くなっていた。


それはが思った通り、恭弥のトンファーの餌食になっていた。


「ちょっと駆除しに行ってくるね。」
すぐに帰ってくるよとと修弥の額にキスをおとすとジャキッとトンファーを構えて臨戦体制で出ていった。

 

そのあと直ぐに聞こえてきた破壊音に、はため息をつきながら、きっと今頃同じように仲裁に向かっているだろう綱吉の姿を浮かべたのだった。


(あ、さん)
(いつもすみません、綱吉さん)


((……………))

(行きましょうか)
(………そうだね)

 


どうかそんな所だけは似ないで欲しい。

綱吉の切実な願いが叶わなかったことを知ったのは

修弥が父親から贈られたミニチュアのトンファーで遊んでいた姿を見た時だった。